表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/228

ビジネスライク

 店の良し悪しは、まだグスラムに来てから日の浅いディルにはわからない。

 なので店の選定は、エディに任せてしまうことにした。

 良い意味でか悪い意味でかはわからないが、彼は少なくとも店の店員に名前を覚えられている程度にはこの街に親しんでいる。なんとなく自分を害するような気配はないように思えるし、そうひどい事態にもならないだろう。

 ディルはただ言われるがまま彼のあとについていき、まだ一度も通ったことのない薄暗い路地の中へと入っていった。


 彼が案内したのは、一見するとただの地下室にしか見えないような怪しい店だった。

 暗がりの路地の行き止まりにある羽目板を外したところに隠されている階段、それを下っていったところにその店はあった。

 エディが不規則にドアをノックすると、示し合わせた男が鍵を開き、自分達二人を中へと入れる。

 もしかしてわし、監禁されるんじゃないかの? と少しばかり戦々恐々としたりもしたのだが、中に入ってみればその懸念はすぐに払拭された。

 歩き回る店員や雰囲気のあるランプ、そして整った調度。彼が入ったのが店であるのは、店員の恭しい態度

 確かに薄暗くはあるのだが、しっかりと雰囲気のあるランプが各所に置かれている。そこは確かに店と呼べる程度には内装が整っていた。

 エディは常連なのか、二三言挨拶を交わすとそのまま奥へと入っていってしまう。

 どうするべきか少し考えてからあとを追うことにする。


 どうやら部屋は完全に個室になっており、外から内側の様子を見れないようになっているようだった。

 

「おーいじいさん、こっちだこっち」


 もう手当たり次第に部屋に入っていくしかあるまいと覚悟を決めかけていたディルは、その声を聞きようやくエディのいる部屋へと入ることができた。

 

 部屋の内部はひどく殺風景だ。元は白かったのだろう薄汚れた壁と、ガタつく机と椅子があるだけで、どうにも店という感じがしない。


「最近は普通の飲み屋ばっかりじゃつまらんってことでな、こういう隠れ家的なのが流行ってるんだ」

「これじゃあ店というか、監獄みたいじゃけどな」

「元は地下牢だったのを改装して作ったらしい。拷問の声を漏れ出さないように設計された部屋だから、秘密の話をするにはもってこいってわけさ」


 なんの話をするか、ディルは彼に直接話したわけではない。それでもなんとなく察されこういう店を選ばれた。

 それなら、下手な腹芸はせん方が良さそうじゃの。

 勝てんならいっそのこと、こっちの腹を見せてしまった方が物事が円滑に進むじゃろう。

 エディが悪人だったらそれはそれ。どんな展開になるにせよ、ここは拙速を尊ぶべき。

 ディルは店員が料理と酒を持ってくるのを待ってから、すぐに話を始めることにした。


「わしが知りたいのは、とある商会の息子さんの話でな」

「ほう、商会ね。ここらで有名なのはカゾットかソンギールかザグダラか……続けてくれ」


 先ほど酔っていた時の醜態はブラフだったのか、今の彼はとても理路整然としている。

 呪いの装備の名前を把握していることから考えて恐らく何か事情のある人間なのは間違いない。

 だが、今は話が聞けるなら些細なことは無視すべきじゃ。

 炒り豆をポリポリとかじりながら、渇いた喉をエールで潤した。


「息子の言動が目に余る商会じゃの」

「ああ、それならリスティスだな。中規模より上、大規模未満って感じのこの辺じゃ四番手のとこだ」

「息子の名前を聞いてもいいかの?」

「問題児の方だとするなら、名前はガルシアだな。なるほど、そっちのクチか。復讐なら辞めといた方がいいと思うぜ? あそこは裏でこの辺りを締めてるマフィアと繋がってるから下手なことをするとあとが怖い」


 ミルヒに言い寄っている人間の名前、そして商会は把握できた。

 これでとりあえず端緒は掴んだことになる。だがその緒は、どうにも頼りなさそうだ。

 できれば弱味を握ってお互いに無関心の状態を維持させる。ディルはそういう方向で話をまとめさせるつもりだった。

 だが向こうが暴力組織と繋がっているとするなら、下手に脅しをかければ自分がいなくなったあとにヒリソ達はもっとひどい目に遭うかもしれない。


「だが最近は父親のカディンもあいつのことを問題視してるらしい。放置しといても、そうだなぁ……あと一二年もすれば川にプカプカ浮かぶことになると思うぜ」



 流石に各ギルドに圧力をかけるような大それたことばかりしていれば、そりゃ父親の反感も買うことにはなるじゃろうの。ディルは納得し、じゃがそれじゃと間に合うかはわからんのぅと頬をポリポリと掻いた。

 確かに父親としては、自分の後ろ楯を使い好き勝手する息子を放置し続けることはできないのだろう。

 だが処断が下されるのが、ミルヒに何かあってからでは遅いのである。

 とすればやはり、ディルができればその父親の迷惑をかけないように、ガルシアだけを狙い撃ちできるような何かを手に入れる必要がある。

 悪事の証拠を持って、カディンに頼むのが良いだろう。ギルドや憲兵に頼んでもなんとかなりそうな気はするが、何かあったときのことを考えるとリスキーな気がする。

 よし、それならばあとはガルシアの非道の証拠を集めれば良い。

 流石に一つや二つなら集まるだろう。

 

「わしの聞きたいことは大体聞けた、ありがとな」

「なぁに、酒の対価がこの程度の情報でいいなら毎日奢って欲しいくらいだぜ」


 エディの事情には深入りしないほうがいいじゃろう。

 こうやって時たま情報を交換する間柄を維持するのが賢明じゃな。

 ディルは連絡先だけ教えてもらい、飲み屋をあとにすることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ