表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

227/228

最奥

 呪いの森の最深部には、意外なことに魔物はまったく存在していない。

 それはこの土地の伝承と名前に由来している。


 呪いの森は、元はよくある森のうちの一つだった。

 ほどほどに野生動物が出て、ゴブリン程度の魔物や燈火程度の弱い魔物が出る、冒険者が定期的に間引きさえすれば何も問題の起こらぬ土地。



 そこに異変が起きたのは、とあるスキル持ちがその場所で自殺をしたからであった。

 この森は樹高の高い木々が密生していて同じ景色が続いているため、一度迷い込んでしまうと元の道に戻るのが大変で、救出の手が入ることは滅多にない。


 故に『呪い』と呼ばれるスキルを持つ少女が一人、その森の中へと入っていった。

 現れる動物や魔物達を呪い先へ進みながら最奥にたどり着いた少女は、そこで自殺した。

 なぜ彼女が自死を考えるほどにまで追い込まれていたかは定かではない。


 だがアルビノや両性具有、特殊なスキル持ちといった他の人にはない特徴を持つ人間が神聖視されたり迫害されることは、ままあることだ。


 結果として少女は死んだ。だが彼女の呪いは死ないなかった。

 やってくるまでに森の中にばらまかれた呪いだけではなく、彼女が死に際に残した特大の呪いが、森をむしばんでいった。


 森は変質していき、強力な魔物や妖怪が出る魔境となった。

 だが彼女の遺体があったところとその周囲だけはぺんぺん草も生えぬほどに荒れ果てており、土は全てを拒絶するかのように真っ黒に変質してしまっている。


 そんな全てを拒絶している土地に、ぽつんと一件の家屋が建っている。

 石造りでこじんまりとした、どこか寂しさを感じさせる小屋だ。


「……」


 無機質な冷たさの強いその場所で、一人の少女が黙々と本を読み続けている。

 黒髪を伸ばして幾重にも重なった着物を身に付けている人形のような少女こそ、イナリが躍起になって動いてきた原因である千姫である。


 既に年齢は十五になったはずだが、年齢と比べてもずいぶんと幼く見える。

 千姫は幼い頃から病弱で、比較的食も細い方であったのが関係しているが、一番の原因は当然ながら、彼女が滞在しているこの場所にある。


 彼女がこの呪いの森の奥でひっそりと暮らし続けてから、既に一年近い時が経っている。

 その間も、呪いは彼女の身体を着実にむしばんでいた。


「こほっ、こほっ……」


 喉の奥をこすり合わせているかのような、かすれた咳の声。

 森に来る前と比べるとずいぶんと生気が失われたように思う。


 もしも長生きしたいと思うのならば、今すぐにでもこの森を抜け出した方がいいのだろう。

 だが千姫は既に、この森で己の生を終わらせる覚悟を決めていた。


 現領主であるモトチカと、前領主であるミチザネを父に持つ千姫。

 二人が争ったとしても、それで利を得るのは他領の人間ばかり。

 自国の民を飢えさせてまですることではない。


 それに純粋に戦闘能力の面で言っても、千よりもモトチカの方が高い。

 千が得意なのは内政や調略であり、戦にはとんと疎いのだ。

 いざという時に前線に出れぬ領主では民もついてはこれないだろう。


 だが思うところはある。

 けれどそれを考えるのはやめにした。

 思索を深めていってたどり着く場所が、決していいものではないと理解しているから……。

 こんこん、とノックの音が鳴る。


 千姫は定期的にモトチカ子飼いのシノビ達から、食料の供給を受けている。

 今週分の食料だろうか。

 いつもと比べると少しやってくるのが早いような気がするが……。


「はーい」


 少し不思議に思いながらもドアを開ける。

 するとそこには……見たことのないおじいちゃんがいた。

ご好評につき、短編の連載版を始めました!

↓のリンクから読めますので、こちらも応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ