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わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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イナリの力


 やはり一番厄介なのは、数の利を使って強引に押し込まれてしまうパターンだ。

 最悪を回避するために、ディルとイナリはまず最初に同じ一人をターゲットに絞ることにした。


 五対二が不利だというのなら、無理矢理にでも二対一になる状況を作ってしまえばいい。

 まず機動力に優れるイナリが、他のシノビ達に先んじてクナイを投げる。


 右端にいたシノビは、その一撃を避ける。

 投擲を弾くために右腕が浮く。その隙を見逃さず、イナリに続いていたディルが剣を振るった。

 剣の一撃を受け、相手が服ごと身体を切り裂かれる。

 ディルはその手応えに小さく頷きながら、そのまま右足に力を込めた。

 軸足から駒のようにくるりと回ること半回転、自分へ向けて放たれた短刀の一撃を、黄泉還しで迎撃した。


 シノビ刀というやつだろう。

 ディルが知っている短剣とは少し形状の違い、握りが長く片刃の造りになっている。


 そのまま途切れることなくやってくる攻撃。その数は合わせて三。

 どうやら向こうもこちらと同じ考えで、一対四を押しつけようという腹づもりらしい。


 投擲用の短刀を弾くと、ちょうど腕が死角になるように攻撃が振るわれる。

 そのままそちらも防ごうとすると、同時に背後からの一撃が迫ってくる。

 両方を迎撃することは困難と判断したディルは、一歩前に出た。


「――なっ!?」


 そして腕の下をかいくぐるようにして放った一撃を受け止め、後ろから迫る振り下ろしを薄皮一枚のところで避けた。

 紙一重の回避に驚いている背後の一人に剣を振るい、打ち倒す。

 そのまま己の脇の下を通すように突きを放ち、もう一人を黙らせた。

 これで倒した数は三。


 見ればイナリが少し距離の空いたところで二人を相手取っていた。

 毒は使っておらず、流石に劣勢な様子だった。

 助けに向かおうとすると、イナリにキッと睨まれる。


 どうやらそのまま見ていろということらしいので、ディルはいつでも助けに入れるよう軽く黄泉還しを握ったまま待機することにした。


 二人のシノビの戦闘能力は高い。ディルの見立てでは、Cランク冒険者程度の力はあるように思える。


 厄介なところは、二人が完全にペアになって互いの隙を消し合っている点だ。

 イナリもかなり戦いづらそうにしているのがわかる。


 彼女が攻撃を仕掛けようとすれば、即座にもう一人がカバーに入ってくるため、なかなか一撃を当てることができない。

 常にイナリにプレッシャーをかけられるよう、敢えて視界の端に映る位置取りをキープしているのもなかなかにいやらしい。

 あれでは敵がちらちらと映ってしまい、意識が集中できないだろう。


 それをどうやって打開するのかと思うと……突然イナリの周囲の光景がゆがむ。


「ぐっ!?」

「くうっ!!」


 そして突如として、イナリを含む三人の背筋が曲がる。

 まるで上から強力な圧力をかけられているかのような力を見て、ディルはイナリから聞いていた彼女のスキルを思い出す。


(ということはあれが……重力というやつなのか)


 イナリの持つスキルは、重力を操るものだ。

 詳しい説明はされてもわからなかったが、まあ簡単に言えば体重が重くなるようなものだという。


 ただし彼女のスキルは一度発動すると周囲にまで影響を及ぼしたり、また彼女自身もダメージを受けてしまうと聞いている。

 だが打開のためには、リスクを承知で力を使わなければいけないということなのだろう。


「私は――負けないっ!」


 イナリが重たそうな身体で攻撃を繰り返す。

 シノビ達も必死になって防御をするが、やはり勝手が違うらしく、慣れているイナリに軍配が上がった。


 二人のシノビを倒してからイナリが能力を解除する。 

 どっと掻いた汗を拭きながらも、彼女の視線は先を向いていた。


「行くぞ、ディル……姫様が、待っている」

「うむ」


 イナリの覚悟に何かを言うつもりはない。

 ディルは少しつらそうにしている彼女の負担を減らすため、先頭に立って警戒をしながら先へと進んでいくのだった――。

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