激突
先へ進むごとに、妖怪の種類と数は増えていく。
オーガのような見た目をしているが、突然口から炎を噴き出す火噴き鬼。
かわいらしい子猫のようにしか見えないが、近づくと突然その身体が巨大化する化かし猫。
見たことがない妖怪達との戦いに最初は少し面食らっていたが、戦ってくるうちに驚くことにも慣れてきた。
要は相手は、見たことがないような魔法を使う魔物と考えれてしまえばいいのだ。
びっくり箱的な要素はあっても、純粋な強さや戦い方は魔物とさして変わらない。
『見切り』を使って動きを最適化さえさせてしまえば、決して対処のできない敵ではない。
妖怪を倒しているうちに、中に魔物が混ざるようになってきた。
ゴブリンやオークなど慣れ親しんだ魔物達が現れることにどこか安心感すら覚えているディルは、間違いなく冒険者であった。
「……そろそろだ」
「あい、わかったわい」
魔物や妖怪達を倒しながら進んでいると、今まで斬っても斬っても湧いてきていたのが嘘であるかのように、その数がみるみる減っていく。
恐らく間引かれているのだ――この先にいる者達に。
「ディル、これを」
そう言ってイナリが取り出したのは、紫色の丸薬だった。
よくみると緑の縞が入っており、いかにも毒々しい。
イナリが差し出してきたこれは、毒を中和するための毒薬だ。
これ以後、恐らくディル達はシノビ達との戦闘に突入する。
そのための準備のうちの一つである。
「これ、ホントに飲んでも大丈夫なやつじゃよね……?」
「だから、事前に何度も言っただろ。後になってから多少腹は下すが問題はない」
イナリがいたレンブの里を初めとして、シノビの中には毒使いも多い。
真っ向勝負で戦うことさえできれば戦闘で彼らに勝つことはできると思うのだが、毒を吸い込んでまともに戦えないような状況に追い込まれてしまえば、ディルにはなすすべがない。
そもそもどんな手を使ってでも任務を達成させようと考えるのがシノビである。
搦め手で攻められたらマズいことはディルにもわかるから、毒対策はしっかりしておくべきだということはわかってはいるのだが……。
「……むぅ……」
ディルはもう一度手のひらに乗った丸薬を見つめる。
毒々しい、本当に毒々しい色をしている。
事前に説明は受けている。
この丸薬は『耐毒丸』といい、名前そのまま毒に耐えることができるようになるという代物だ。
なんでも身体の中に常に微弱な毒を入れておくことで、外からの毒の影響を受けなくなる効果があるらしい。
こんなものを口に入れて本当に大丈夫なのか。
第一、腹を下すということは身体に有害なのではないか。
微弱とはいえ毒を含んでいいものなのか。
いや、イナリのことを信じていないわけではない。
だが老人というのは、何かと新しいものに挑戦するのが苦手な生き物だ。
「……ええい、ままよっ!」
イナリの視線を感じこれ以上の引き延ばしは不可能と判断したディルが、お腹に力を入れて丸薬を口に入れる。
そのまま飲み込むと、意外にも爽やかなミント系の後味が残った。
「効果時間はそれほど長くない。先を急ぐぞ」
「わかった」
イナリの先導に従い先へ進んでいく。
すると魔物の勢いが更に減り、まったく魔物の影が見えなくなった。
そこから先は、ディルが先頭に立つ。
そして常に『見切り』を使いながら、相手の奇襲を警戒する。
ディルの中の何かが警鐘を鳴らしていた。
すると突如、視界にラインが生じる。
それは、ここで剣を振るべき最適解。
黄泉還しが弾いたのは、闇に溶け込むように黒く塗られたクナイであった。
新たに生じる殺気と、周囲から現れる気配。
見れば数はイナリのような装束に身を包んだ者達が合わせて五人ほど。
「行くぞい」
「ああ」
こうしてディル達は、シノビ達との戦闘に突入するのだった――。




