コウガ
「ふむ、なるほど。私が感じていた違和感の正体はそれだったか……」
ディルは約束していた茶屋でイナリと落ち合い、今後についての話をすることにした。
どうやらイナリもオルカに対し感じている部分があり、彼女なりに色々と調べ物をしていたということだった。
ディルは得物がかなり目立つ漆黒の魔剣であり、更に言えば腕の立つジジイということで目立つことこの上ない。
基本的に情報収集に向いていないため、ディルは日村組の組員からの情報収集をするくらいで、あまり自分から積極的に動かないように心がけていた。
そのせいでディルの情報には、かなりの偏りがある。
なのでイナリが集めてきた表の情報を聞いて、すり合わせをしていく。
当然ながらそこには、ディルの知らない情報がたくさんあった。
「どうやらオルカは、コウガとは折り合いが悪いようだ」
美空家の当主であるオルカとそれを支えるコウガ。
二人の関係性が、ここ最近ますます悪くなっているのだという。
「コウガは自分が美空家を継げると思っていたわけじゃから、それをオルカにかっさらわれて納得がいっていない……そんなところかの?」
「詳しい事情に踏み込めているわけではないが、まあおおよそそんなものだろうな」
少し考えればわかる話だ。
本来なら自分が当主の座を継げると思っていたら、それを年上の姉に取られてしまった。
思うところがあるのは当たり前の話だろう。
「いや、二人の仲はそこまで悪くはないらしい」
「え、それならなんで……」
「どうもコウガが、良くない連中とつるんでいるらしいぞ」
オルカのことを追ってかどうかは知らないが、コウガも裏の連中と関わりがあるらしい。
そちらの方なら、ディルの本域だ。
良くない、というのは比喩でもなんでもなく。
コウガがつるんでいるのは、本当に質の悪い奴らだった。
「よりにもよって義亜組とはの……」
義亜組とは、金儲けのためならなんでもすることで有名なギャングだ。
禁制品の麻薬の栽培や運搬から、非合法な奴隷の売買にまで色々なものに手を出している。 噂では要人の誘拐や暗殺、恫喝を含めたいくつもの非合法な裏取引まで食指を伸ばしているという話だった。
たが義亜組は日村組とは勢力圏が被っていない。
義亜組が活発に活動しているのは、四武家のうちの一つである安部家の地域だ。
テリトリーが違うため、日村組と直接干戈を交えたことはなかったと記憶している。
「だがこれは裏を返せば、チャンスということにもなる」
「なるほど、コウガ殿を助けて恩を売ろうというわけじゃな?」
「それに上手くいけば安部家の協力も取り付けられるだろう。そうすれば機を見るに敏な湯部家も、姫様の方になびいてくれるはずだ」
接触しただけではどうすれば賛同してもらえるかわからなかったディルだったが、イナリと話しているうちに光明が見えてきた。
とりあえずコウガを悪の道に引き込もうとする義亜組に目にものを見せてやる。
できればオルカに恩を売る形で問題解決をしながら、ついでに安部家の領地の治安の良化にも貢献する。
それをするためにはディルだけではなく、イナリの活躍も必要になってくるだろう。
官憲の追求の手から逃れている義亜組に一泡吹かせるためには、彼女の諜報能力は必要不可欠だ。
ディルは少し考えてから、とりあえず日村組に戻ることにした。
義亜組をどうにかする手立てはないかと、タツミに直接相談することにしたのだ。
オルカと仲の良い彼であれば、コウガの事情にも明るいはずだ。
そしてディルの見立ては、見事的中することになる――。




