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わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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美空家


 美空家には二人の子供がいる。

 一人は長女である美空オルカ。

 そしてもう一人は、長男である美空コウガ。


 明確に法として明文化されているわけではないが、基本的に家というものは男が継ぐものだというような風潮が、ヤポンには流れていた。


 そのため美空オルカはゆくゆくは嫁に出されるものとして、花嫁修業に出されていた。

 けれど彼女は先代の領主でも上手く手綱を取れないほどのじゃじゃ馬で、毎日隙を見ては屋敷を抜け出して外に遊びに出掛けていたのだという。

 タツミとオルカは、その時に出会ったらしい。


「あいつは自分からスカートを破ったり、泥まみれになったり、平気で人をぶん殴ったり……自分を汚すことや、自分がどう見られるかってことになんの頓着もしないやつだった。俺は一目見てわかったよ。オルカには間違いなく、女傑の素質がある。こいつが当主をすれば、美空家は益々栄えることになるだろう……ってな。どうしてこいつが男に生まれなかったんだろうと、神様に恨み言を利きたくなったくらいだ」


 オルカとの出会いは、なかなかに鮮烈だったらしい。


 未だタツミがただのスラムでなんとかして生計を立てることに必死だった頃のこと。


 彼はある日、見知らぬ女の子を見つけた。

 楚々としていてスラムとは似つかわしくない美少女だったという。


 スラムで暮らして長いタツミは、このままでは彼女が間違いなく不幸な目に遭うことがわかった。


 彼は自身の心にあるほんの少しの良心から、忠告してやることにした。

 彼女が消えていった曲がり角へたどりつくと、切り替わった視界の先では少女が大人達を張り倒し気絶させていたのだという。


「あれを見た時は笑ったね」


 悪友という表現がぴったりくるような間柄だったという。

 タツミの話を聞いている限り、二人は特に男女の関係というわけでもなさそうだ。

 どちらかというとタツミが、オルカに対して一方的な憧れを抱いているようにも見える。


「タツミ殿が日村組を率いるようになり、オルカ様が美空家を継ぐことになった後も、二人の関係は続いている……ということですかな?」

「その通りだ。まああんまり表立って言えるような関係でもないがな」


 美空オルカの清廉潔白なイメージや、あの高圧的な印象は、彼女が狙って与えているものなのだという。

 彼女は親しい間柄の人がいる場合は、自分の素を曝け出すことも多いようだ。

 タツミと会っている間も猫を被っていたのは、ディルがいたからなのだろう。


「オルカ様は最初から、スラムの撲滅をするつもりはなかった」

「というと?」

「潰しきって膿を出し切るのは無理なことくらい、あいつは百も承知なわけだ。だから質の悪い奴らを最初にプチプチと潰し、ある程度自浄作用を働かせてから俺と組んだわけだ」

「なるほど……」


 話を聞くにつれ、オルカの印象が変わってくる。

 どうやら清らかな印象は彼女のイメージ操作によるもので、その内側には最初から清濁併せのむ気概があったということだろう。


 となれば次に気になるのは、やはり千姫について彼女がどのように考えているかだ。

 そもそもそれを知るために用心棒をやっているところもある。


 オルカと仲のいいタツミであれば、彼女の考えもある程度わかるだろう。

 いきなりオルカに切り込むより、まずはタツミに聞いておいた方が要らぬ勘ぐりを受けずに済みそうだ。

 そう思って尋ねたディルに帰ってきた答えは……。


「オルカ様は今のところ、モトチカ様に忠義を誓っている。対し千姫のことは、あまり好んではいないみたいだぞ。モトチカ様の治政は、今のところそこまで悪くはないしな」


 正義漢であれば、情や道理に訴えかけることもできる。

 けれどオルカはどちらかと言えばリアリストだ。

 彼女を説き伏せるためには、色々と下準備が必要になりそうだった。


(一度イナリと話をしてみるかの……)


 オルカとの直通のパイプができたディルは、一度腰を据えてイナリと今後のことについて話し合うことにしたのだった――。

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