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わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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回顧


 ディルはタツミの懐刀として、彼について回るようになっていた。

 荒事に発展することは滅多にないが、相手に舐められないようにすることは重要だ。

 現在日村組に在籍する者の中で最も戦闘能力が高いディルは、タツミの行動を見ていくことで、日村組が目指していたものの正体を知ることになる。


「誰もが底辺の少し上を歩ける世の中……俺達が目指してるのは、正しくそんなぬるい地獄ってやつさ」


 オルカは治安維持のためにタツミを手を組んだ。

 その相手方であるタツミが領主と手を組んだ理由は、スラムの人間の顔色を明るくするためだ。


 日村組は麻薬を始めとする禁制品を取り扱ってはいない。

 魔物や動物の皮を鞣したり、遺体の処理をしたりといった、いわゆる賤業などの請負や、借金取りやテキ屋などギリギリ合法な手段を主な稼ぎとしている。

 表ではできないことをやる代わりにその存在を認められている彼らは、自分の分をよく弁えていた。


 日村組の人間がギャングのわりに人から嫌われていないのは、タツミが最下層の人間には優しくしろと徹底しているのが大きいのだろう。


 タツミはただ優しいだけではなく、冷酷で、そして有能でもあった。

 日村組が他のギャング達から頭一つ抜きん出ているのは、その証拠でもある。


 彼はギャングの頭を張っている人間のウィークポイントを的確に見抜き、その日食べた夕食から厠に行った時間に至るまであらゆる情報を取りそろえていた。

 頭をナンバーツーと仲違いさせ、路頭に迷っている組員達を吸収合併してしまう。

 このやり方で日村組の人間は、その勢力を大きく伸ばしてきた。 


 もちろん頭の良さだけで勝ち上がれるほど楽な世界ではない。

 タツミはそのために腕っ節の強い人間であるディルを雇い入れ、美空家とまで手を組んだのだから。

 だがディルは何かにつけ、オルカと会った時のタツミの態度が気になっていた。

 そのためディルは、折を見て聞いてみようと思いながら日々を過ごすのだった――。




 スラムの人間の生活というのは、当然ながら表の人間の生活に左右される。

 あちらの景気が悪くなれば当然ながらスラムにくる仕事の量も減り、あちらの景気が良くなれば合法非合法問わず旨みのある仕事が転がり込んでくるようになる。

 そのため自然と表の情報も入ってくるようになることが多い。


 ディルが気になっているのは、ここ最近長砂国での米の値段が上がっていることだった。


「戦争が起こるのでしょうか……?」

「さあ、そこまでは俺にはわからん。だが少なくとも金を持っている商人が買い占めたり、米を持ってる奴らが出し渋ったりし始めてるのは間違いない。何かしらきな臭い情勢にはなってきてるんだろうな」

「皆の暮らしにも影響が出そうですな……」


 非合法な手段で娼婦を調達し、その生活から抜け出せなくなるほどのアガリを取っていた違法娼館を潰してきたその帰り道、ディルはタツミと話しながら事務所へ戻っていく。


 米の値段が上がるということは、米の需要が高まっているということだ。

 そして今年は別段不作というわけではなく、どこかで飢饉が発生したという話も聞かない。 となるとその理由として真っ先に戦支度が思い浮かぶのは、当然のことだった。


 あまり悠長にことを進めている余裕はないのかもしれない。

 そのためディルは少し早急な気もしたが、タツミに気になっていることを聞いてみることにした。


「美空オルカ様とタツミ殿は、お知り合いか何かだったのでしょうか?」

「どうしてそう思うんだ」

「拝見した時に、ビジネスライクな関係とはまた違った空気感があるような気がしましての」

「なるほど……鋭いな。実は俺と美空様は、以前はよくつるんでた悪友だったんだよ。あれは……そうだな、まだコウガが領主になるって言われてた時の話だったか……」


 そういってタツミは回顧しながら、当時のことを懐かしそうに語るのだった――。

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