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わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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美空オルカ


 オルカは、男装の麗人という表現の似合う女性だった。

 青の髪はショートに切り揃えられており、その顔はキリリと凜々しい。

 着崩した帷子を身に付けてあり、胸部は白い布できっちりと締め上げられている。


「なかなか良い面構えをしているな」

「恐縮です」


 許しを得るまで平伏するといったような一般的な様式は嫌いらしく、オルカとタツミは大陸式に椅子に腰掛け、面と向かって話をする形になった。

 ディルはタツミの後ろに控え、静かに立っている。


「タツミから色々と話は聞いてるぞ。お前のおかげで日村組が盛り返せたと聞いている」

「わし一人の力ではありませんよ」

「謙遜するな。その身に秘めたる剣気……隠そうとして、隠し通せるものではない」


 通常であれば、ギャングの用心棒とこれほど会話をする必要はない。

 であれば相手の狙いはどこにあるのか。


 動作を観察し相手の弱点を狙う戦闘の時のように、ディルは少々気合いを入れすぎていた。 どうやらそのせいで色々と見抜かれてしまったらしい。

 一旦気持ちを落ち着けるために、大きく息を吸って吐く。

 そしてそのまま置き物のように、不動の体勢を維持することにした。


 その様子を見て興味深げな顔をしたオルカは、そのままタツミと話を始めた。

 内容はここ最近のスラム街についてである。


「孤児院の運営費が少し足りていない……」

「いや、それよりも職業斡旋の現状について……」


 少なくとも美空家が領主を務めている地域において、ギャングは日村組の一強状態となった。

 おかげでタツミの鶴の一声で、どうとでも動くようになっている状態だ。


 それがいいのか悪いのかはわからない。

 ただディルが色々と調べた限りでは、治安は以前よりも良くなっている。


 オルカがギャング達の一斉摘発をして頭がいなくなったことで、各地の治安はむしろ悪化した。

 小さな抗争が頻発する状況となり、スラムの人間はおちおちと寝ることもできなくなってしまっていたのだ。


 とにかく厳しく取り締まれば全てが解決する……世の中は、そんなに単純ではなかったということだ。

 清すぎる川には魚は住めないし、全てを管理するには世の中というものは混沌とし過ぎている。

 故にオルカは逃げ延びたギャングの頭であるタツミと手を組んだ。

 これをどう捉えるのがいいのだろう。


 オルカが清濁併せのむことのできる人間となったと捉えるべきか。

 聖人君子が悪者とつるむようになったと捉えるべきか。


 目の前で話をしているオルカを見て、そのどちらも間違っているとディルにはわかった。


(どうやら……二人は、わしが思っていたよりずっと仲が良いみたいじゃ)


 タツミとオルカは気が置けない間柄といった感じで、非常に砕けた感じで話をしている。

 ただのギャングの頭と領主の関係ではなさそうだった。


 ディルとしては、オルカを味方につけておきたい。

 将を射んと欲すればまず馬を射よ。


 そのためには少し回りくどくはなるかもしれないるが、タツミともう少し腹を割って話をする必要があるかもしれない。

 結果的にはその方が近道になる……ディルの直感がそう告げていた。


 タツミとオルカの会合はそれほど時間もかからずに終わり、ディルはタツミの後ろをついてその場を後にする。


「またな、ディル」

「……ええ。いずれ、また」


 領主との初会合は、少しの収穫と多くの謎を秘めたままで終わることとなる。

 オルカとはまたそう遠くないうちに会うことになるだろう。

 なぜだかわからないが、ディルには確信めいた予感があった。

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