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わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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違和感


(本来なら裏で情報を取ってくるのは私の仕事なのだが、あの馬鹿(ディル)は何をやっているのか……)


 ディルがヤポンに来てからやっていることは、控えめにいって無茶苦茶なことばかり。

 だがなぜか、それがやることなすこと上手くいっている。


 その様子は、傍から真面目なアドバイスをしていたイナリすら舌を巻くほど。

 なのでイナリは、もう何も言うのを止めていた。

 好きにやらせることにしようと、思考を放棄したのだ。


 ディルがギャング相手に大立ち回りしている間、もちろんイナリも何もしていなかったわけではない。

 彼女は今回も、自分のやり方で情報を入手する形を取ることにした。


 ただし今回はディルが裏社会に入り込みすぎている。

 なので表の情報が取れるより、普段よりかなり浅めでの情報収集を続けることにした。


 長砂では、イナリは島流しの刑に遭っており、その所在がバレれば即座に打ち首獄門になるほどの大罪人だ。

 そのためあまり目立つようなことはせず、とにかく人目につかないよう行動を心がける。 故にディルとの接触も、来たるべきタイミングまでは最低限度に留めることにしている。


 イナリはクノイチ。

 現地で実際に生活を行う浸透系の任務もこなしてきた彼女にとって、人の波に紛れ込むことなど非常に容易いことだ。


 人の流れに溶け込むのは、なかなか簡単なことではない。

 人にはそれぞれ自分のペースというものがあり、その土地には土地柄や風土というものがあり、そういったものは即座に身に付けられるようなものではない。

 なのでまずは、溶け込もうとするのではなく、異物として見られることがないように己を殺す。

 周囲の人間や軒先と共に背景に入り込む。

 そして徐々に自分を出していき、不自然にならぬように周囲と調和をするのだ。

 不自然でないように情報を集めるには、隠形とはまた違ったスキルが必要となってくるのである。


(美空家を取り込むことができたとすれば、刑部家も含めて長砂四家のうちの二つがこちら側についたことになる。欲を言えばあと一家、湯部あたりを動かすことができればと思うが……臣下の半数が取れていればそれで問題はない)


 千姫の人望の篤さを考えれば、民がモトチカと彼女のどちらかを取るかは明らか。

 四武家のうちの二つがついてくれれば、民意も含めた上で問題なく当主に返り咲くことができるだろう。


(モトチカを暗殺することができれば……また違ったやり方もあるかもしれないが)


 イナリのことを警戒してか、モトチカの周りには常に警護のシノビが存在している。

 実際に暗殺を成功させるのは難しいだろう。

 それにそんな形でモトチカを殺しても、千姫が首を縦に振ってくれるとは限らない。


(姫様のお心を動かすことができれば……なんとかなるはずなのだ)


 恐らくは呪いの森にも、千姫を監視するためのシノビがいるだろう。

 だがそれでも、モトチカを殺すより幾分かは楽なはずだ。

 人を殺すためではなく助けるためならば、ディルも間違いなく手を貸してくれるだろうし……とそんな風に考えて、イナリはふと我に返った。


「……くっくっく」


 そして彼女は腹を押さえながら、小さく笑う。


 めちゃくちゃなことばかりするディルのことを当然のように勘定に入れている自分が、急におかしく思えてきたからだ。


 人に頼ることを覚えるとは、自分も弱くなったのかもしれない。

 だが逆に自分の弱さを認め、誰かの力を借りることこそが、真の強さのような気もしてくる。


 イナリはキリリと表情を引き締め、仕事モードに入ることにした。

 そして情報を集めていくうち、彼女は妙な違和感を覚える。


(美空オルカ……彼女は本当に、聖人君子と呼ばれるほどの女傑なのか?)




拙作『豚貴族は未来を切り開くようです』第一巻が6/25に発売致しました!


挿絵(By みてみん)


作品の今後にも関わってきますので、書店で見かけた際はぜひ一度手に取って見てください!


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