抗争の後に
タツミの麾下として、ディルは獅子奮迅の活躍を見せた。
そしてみるみるうちにギャング達はタツミ率いる日村組の下に吸収・合併していくことになる。
さほど時間が経たぬうちに、日村組はその名をスラムに知らしめることになる。
そして各スラムを縄張りとする組同士の抗争が続き……いつしか組は大きく二つのグループに分かれることになった。
一つはディルが所属する日村組。
そしてもう一つは、長砂で最も歴史の古いギャングである因幡組である。
残すところは、最後の戦いのみ。
けれどディルはそれほど心配はしていなかった。
ヤポンに来たディルに圧倒的に足りていなかったもの。
それは対人の実戦経験だ。
ディルは強力な魔物とは何度も戦ったことがあるが、人と本気で戦ったのは盗賊討伐と、あとは黒騎士を抑えるために戦った時くらいなものだ。
だがこのヤポンでは、得意な土俵に持ち込むために魔物を狩った時以外は、基本的には人との戦ってばかりいた。
人間の戦いは、魔物との戦いとはまた違う。
力任せに武器を振るう魔物と違い、人には戦闘のための技術がある。
フェイントによる虚実や、戦いの最中で見せる駆け引き。
そういったものの妙を、ディルは戦う相手から吸収していった。
何人もの悪人の用心棒達を斬り伏せていく中で、彼の戦闘センスはますます花開いていく。
ギャングという戦う場面の多い職種ということもあり、その構成員の中にはスキルを持つ相手も多かった。
おかげでディルはスキルを持っている相手との戦い方についても、ある程度感覚を掴むことができるようになってきている。
今では相手が魔法使いだろうと、近接系のスキルの使い手だろうと、問題なく対処することができるようになっていた。
(なぜか最近身体も軽いし、まだまだ若い者には負けてられんの)
残す戦いもあと一つ。
だがディルはまったくと言っていいほどに、気負ってはおらず。
彼はごくごく自然体のまま、抗争へと乗り込んでいくのだった――。
「ほっほっほ……まあ、こんなもんかの」
「この……強すぎんだろ……」
ガクッと意識を失った男から武器を取り上げ無力化してから、ディルはグッと背伸びをする。
後ろを振り返ってみれば、そこには顔を引きつらせている日村組の構成員達の姿があった。
「つ、強すぎでしょう……」
「俺達って来た意味あったのかな……?」
ディルの周囲には、気絶した男達の姿がある。
魔法使いや剣士、果てには妖怪使いなどの珍しい者もいたが、ディルからすれば皆一ひねりである。
因幡組の構成員達は末端から上層部の人間に至るまで、皆ディルに転がされて意識を失っていた。
無論誰一人として殺してはいない。
長砂での戦いに慣れてきたディルにとっては、手加減をすることすら造作もないことであった。
ディルはこのように、とにかく相手を倒さない不殺の流儀を貫いていた。
こんなことが許されるのは、彼は強いからだ。
ギャングの世界において、強さはどんな正義にも勝る。
この世界には、仁義と呼ばれる考え方がある。
ギャングにはギャングのやり方や守らなければいけないものがある。
自らの流儀を通し、自分達を殺さずにいてくれたディル。
彼とその雇い主であるタツミに対して反することは、仁義にもとる行為だ。
故に命を助けられたディルと日村組に対して、誰も文句をつけることはなかった。
ディルの相手を殺さず、その組織をまるごと傘下に収めるやり方は、結果だけ見れば非常に効果的だった。
最初は難色を示していたタツミも、その効果を実感してからはもう何も言わなくなっている。
日村組がこうして双方で禍根を残したり、民間人に被害を出したりすることなく頭角を現すことができたのは、間違いなくディルの功績であった。
こうして日村組は押しも押されぬ長砂で名の通ったギャングに躍り出た。
そして抗争での輝かしい功績を持つディルは、タツミと共に美空オルカとの会合に参加することになった。
紆余曲折ありながらも、ディルの方はディルの方で、しっかりと美空家への道筋をつけることに成功したのだった――。




