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わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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女傑


 長宗我部家の中には、いくつかの派閥がある。

 あくまでも私が居た頃の話だがな、と前置きしてからイナリは長宗我部家についての話を続ける。


「刑部家、安部家、湯部家、美空家。この四つが、長宗我部家の中の有力な四武家にあたる」

「そしてその中で反モトチカ派として動いてくれそうなのは刑部家のみ、という話じゃったよね」

「ああ、美空家は中立、そして安部家と湯部家はどちらかと言えば親モトチカ派だ」


 今からディル達がやろうとしているのは、長宗我部家の御家騒動だ。

 可能ならば犠牲を出すことなく、速やかに千姫を当主の座に返り咲かせることが当面の二人の願いだ。


 御家騒動を成功させるのに必要なものは二つある。


 一つは、実際に内紛が起こらぬだけの戦力……具体的には半分以上の武家をこちら側に引き入れること。

 そして二つ目は、当主の座を与えても構わないと隠棲してしまった千姫を説得し、彼女にやる気を出させることだ。


 このうち、二つ目についてはまだまったく方策は立っていない。

 千姫がどういう人間で、彼女が何を求めているのか。そしてどうやれば説得することができるのか。

 今のディル達にはあまりにも材料が少ないので、こちらは一つ目の問題を解決する過程で考えを深めていけたらと考えている。


 一つ目の武家の説得に際しては、長砂国の中の主要な人物や家を覚えていかなくてはならない。


 そのためディルはイナリから、長宗我部家の中でも主要な立ち位置にいる人物のことを必死に頭に叩き込んでいる最中であった。


「ということでわしらは今からその美空家の人間を説得しなくてはいけないんじゃよね」

「そのために必要なものが何か、という点から考えなくてはならないがな」

「……」

「……? どうかしたか?」

「いや、本当にただの町娘にしか見えんなと思って」


 当然ながら、イナリはその正体を長砂国の人間に知られるわけにはいかない。

 そのため彼女はこの国に来てからすぐ、がっつりと変装をしている。

 その村や町に溶け込む浸透系の諜報任務もこなしてきたイナリに、その程度のことは朝飯前。

 彼女のチャームポイントである獣耳はカツラの下にしまわれており、目の色はカラーコンタクトで変えている。

 化粧もしているため、普段と違って随分と柔和そうに見える。

 ここまでされると、イナリを知っている人間であっても見抜くのは困難だろう。


「私の見た目なぞどうでもいい、さっさと行くぞ」

「……」


 もっとちゃんとしろという無言の圧力を受け、たじろぐディル。

 イナリの早足についていきながら、ご機嫌取りのために四苦八苦するおじいちゃんであった。






 ディル達は現在、美空家の所領である鬼岩の街へと向かっている。

 長砂国四武家の中では所領が一番狭いが、中にはいくつか小規模な鉄鉱山があるため、鉄鋼業が盛んということだった。

 長宗我部家で武具の生産を一手に引き受けているのは、美空家なのだという。


 ディルが道中叩き込まれたのは、美空家の中の勢力図だ。

 美空家には当主である美空オルカとそれを補佐する美空コウガがいる。

 オルカは美空家の長女であり、コウガは美空家の長男。


 美空家は唯一、四武家の中で女性が当主をしている派閥でもある。

 モトチカはその影響力が長宗我部家にまで波及するのを恐れコウガを当主に据えようとしたが、それらの干渉はきっぱりと断っているらしい。

 オルカはかなり芯の通った女傑ということだった。


 美空家は中立派であり、モトチカについては是とも非とも言わずに沈黙を保っている。

 その旗色をこちら側に塗り替えることが、今回の目的ということになる。


(なら尚のことこちら側にひっくり返すのは無理があるようにも思えるんじゃけど……)


 何にせよ、オルカの考えを知らないことには話にならない。

 というわけでまずはイナリに頑張ってもらおう。

 そしてそこから先は、ディルが頑張る分だ。


 なので今は英気を養っておこうと、ディルは鬼岩の街に着くまでは、のほほんと旅を楽しむことにした。


 約五日ほどの時間をかけると、ようやく街に辿り着く。

 初めて見るヤポンの鉱山街は、どこか第二の故郷であるギアンを思い起こさせる。

 ディルはその無骨さに笑みをこぼしながら、街へと入っていくのだった。



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挿絵(By みてみん)


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