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わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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204/228

倉庫にて


「ふむ。あなたが私を呼び出したディル殿でしょうか?」

「いかにも。サダナリ殿とお見受けしますが、相違ないでしょうか」


 長砂国では、領主であるモトチカの悪口を言うことは極刑とされている。

 また、長砂国では密告も推奨されており、他の国と比べても一層周囲に目を配らなければならない状況だ。

 故に誰もが秘密の話ができるところの一つや二つは持っている。


 ディルがサダナリを呼び出したのは、人気のない倉庫の中である。


 サダナリは差出人の詳細もわからない人間の手紙に従い、わざわざ人気のない場所までやってきた。

 その理由とは……。


「本当なのか……モトチカに反旗を翻そうなどと」

「いかにも」


『反モトチカ派を結集させ、今一度前当主の娘である千を押し上げる。そのための手助けをしてほしい』


 手紙に書かれた内容を読めば、サダナリは放置することもできなかった。

 故に一度会うと決めたのだ。


 もし手紙の主が信用することができるのなら、手を貸すくらいはやぶさかではない。

 そしてもし信ずるに値せぬのなら、自身の手で引導を渡してやればいい。


「その理由は如何」

「モトチカの度重なる増税により、長砂国の民は疲弊しております。それを放置しているモトチカは、当主として相応しくない」

「……」


 ディルの言葉に、サダナリは言葉を詰まらせた。

 モトチカの治政は良くない、そう断言する者を最後に見たのはいつだっただろうか。


 いつからか、長砂国はモトチカが支配する一つの独裁国家のようになっていた。

 彼のことを批判することは許されず、彼のことを悪し様に罵ればその人物が消えていたりする。


 密告による報奨金や昇進が存在するせいで誰もが他人の粗を探すようになり、信頼する者の前であっても密告を恐れて本当の意見を言うことができなくなっているのが現状だ。


 そんな中、このご老人はモトチカに臣従しているサダナリの前で啖呵を切ってみせた。

 このように意気込んでいる人間を、サダナリはもう久しく見ていないような気がしている。

「……私もモトチカ様のやり方は少々強引に過ぎるとは理解している。けれど他の六国を制圧することは、モトチカ様にしかできぬことでもあるのだ」

「ふむ、左様ですか」


 どうやらサダナリは、ディルが知らないモトチカの事情を色々と知っていそうだ。

 強引なやり方にも理由があるというのなら、サダナリが簡単に首を振らないのにも納得できる。


「ですが千姫であれば、モトチカ様のやり方よりもはるかに犠牲や民への負担も少なく、六国を纏め上げることができるでしょう」

「それは……だが千様はあくまでも不戦を貫こうとされているはずだ。主戦派なのはモトチカ様だけである」


 サダナリとディルは言葉を交わす。

 サダナリは話をするうち、ディルの主張にも一理あると感じるようになっていく。


 ディルの武人としての気配、そして同じく憂国の士であるという点からシンパシーを感じていたのも大きいかもしれない。


「わかった……いざという時には、力を貸すこともやぶさかではない」

「感謝致しまする」

「だが全ては千様の意向次第だろう」

「ええ、もちろんです。準備をしっかりと整えたら彼女を迎えに上がるつもりです」


 準備というのは、恐らくは自分のようなモトチカのやり方に不満を持つ者達の懐柔や寝返り工作なども含まれているのだろう。


 だが刑部家の中でもいきなり自分に話を持ってくるあたり、ディルの諜報能力はかなり高い。

 恐らく動いているのも単独ではないはずだ。


 それは下手に身動きができない自分にはできないことだった。

 もし本当に長砂国を変えようとするのなら……それを手助けすることくらいはしてもいいだろう。


 無論目論見が途中で露見するようなら、この老人もそれまでだったということ。

 こちらは知らぬ存ぜぬを通せばいい。


 だが、どうしてだろうか。

 サダナリにはディルが下手を打って捕まるようなことをしでかすようには思えなかった。


 ディルとサダナリが握手を交わす。

 こうしてディルは、長宗我部家の家中の中に伝手を持つことに成功したのだった――。



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挿絵(By みてみん)


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