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わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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これは

「なぜだ!? 今すぐに行くべきだろう!?」

「イナリ、ちょっと落ち着きなさい……」


 ディル達は情報屋ミルから千姫の情報を得ることができた。

 千姫の居場所を聞いてからというもの、イナリはずっとそわそわとしていた。

 どうやら彼女は、今すぐにでも会いに行きたいらしい。


「その気持ちはわからんでもない」

「それなら――」

「じゃが、聞いた話では呪いの森にはそう何度も入れんということじゃったじゃろ? それなら事前にしっかりと準備をして、全てに答えを出してから会いに行くのがいいと、わしは思う」


 呪いの森には、強力な妖怪や魔物が巣食うという。

 また千姫が外部の人間と連絡を取ることができぬよう、周囲をシノビ達が警戒しているという話だ。

 それらの困難も、ディルとイナリが力を合わせれば乗り越えることはできるだろう。

 だが会いに行くこと自体は無理ではなくとも、そう何度も会えるものではないと考えた方がいい。


「侵入に気付かれて千姫をどこかに移送でもされたら、わしらには新たな居場所をを知る術がない。よしんば知ってまた会いに行くことができたとして。そんなことが何度も続けば、千姫が脱走する可能性を考えて、モトチカが愚挙に出ないという可能性がどこにある?」

「……」


 イナリは黙り、そのまましばしの時間が経つ。

 どうやら気持ちの整理はついたようで、顔を上げた時には、いつものポーカーフェイスに戻っていた。


「よし、落ち着いた」

「それなら良かった」

「ありがとう……ディル」

「なに、困った時はお互い様じゃよ」



 千姫救出のために必要なことは、彼女の居場所を把握することだけではない。

 彼女を救い出すということは即ち、この長砂国に嵐を巻き起こすということでもある。

 だが焦りは禁物だ。

 自分達の存在が未だバレていない今だからこそできることは数多くある。


 こうして気持ちばかりが逸っていたイナリは少し落ち着き、ミルのように面識のある者達とアポイントを取っていき地盤を固めていくことに専心するようになるのだった。






 ヤポンは六国、最東にある長砂国。

 六国において最大の版図と人口、武力を持つこの国を治めているのは長宗我部家であり、その領主であるモトチカだ。

 けれど領主である彼の評判は、あまり良くはない。


 その一番の原因はやはり、先代領主の愛娘だった千から強引に領主の座を奪ったことにある。


 千は長砂国において、アイドルのような存在だった。

 容姿端麗、眉目秀麗。のみならずその頭脳も明晰であり、彼女が提唱した関税の撤廃や商人誘致を誘致するための科目ごとの税率の軽減によって長砂国の国力は目に見えて増大していた。


 内政に実績のある彼女は、けれど傲るようなこともなく、民達に気安く接していた。

 本来ならば何の問題もなく長宗我部家を継ぐはずであった千から、モトチカはその座を簒奪した。


 そして千の助言を時に聞き入れながら、軍備の増強をし続けた。

 おかげで六国の中でも頭一つ抜けた数の兵を揃えることはできているが、彼の施政の評価は決して高くない。

 軍備の増強に次ぐ増強により、領地は疲弊していた。


 モトチカは領主である自分の陰口や悪口を決して許さない。

 そのため表立って口にする者は決して多くはないが、少なくない人間が思っていた。


 千姫が長宗我部家の当主に返り咲いてくれれば……と。



「馬の用意は?」

「へぇ、できております」


 馬丁から馬を受け取った男の名は、刑部サダナリ。

 四つある長宗我部家の有力な家臣のうちの一つである、刑部家の当主である。


 武芸十八般を治めるサダナリは、馬に乗りながら街の様子を見つめる。

 民達の顔は一様に暗い。


(相次ぐ重税で既に民の生活は限界に近い……果たしてここまでする必要があるのだろうか)


 サダナリは長宗我部家の中にいる、反モトチカ派の一人であった。

 彼は立場上、長宗我部家の方針を知っている。

 けれど知った上でなお、こう思わずにはいられなかった。


(果たして民の生活や笑顔を犠牲にしてまで、六国を統一する必要があるのかどうか……)


 かつては協調派だったモトチカは現在、武力によって他の諸国を脅かそうという立場を取っている。

 正直なところ、いつ戦が起こってもおかしくはない状況だ。


 サムライとして戦場を駆けることも、戦場で命を散らすことも厭いはしない。

 けれどせめて死ぬのなら、主君に足る人間の命に従って死にたかった。


「ふぅ……」


 馬上での槍術の稽古を終え、家に戻るサダナリ。

 その机の上に、一通の手紙が置かれていた。


 封を切り、ぺらりと中を開く。


「こ、これは――」



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