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千姫の居場所


 長砂国の中は、完全に敵のテリトリーということになる。

 それにここには、イナリのことを知っている者も多い。

 故に相応の準備をして挑まなければならない。

 ディルが色々と走り回っている間、イナリの方もぼうっとしていたわけではない。

 以前からの知り合いと連絡を取っていたらしい。

 長砂国の中にいる何人かとは、話をつけることができたという。


「まずは私の知り合いのところまで向かおう」

「了解じゃ」


 イナリは黒髪の少女に扮装していた。

 耳は完全に隠しており、その上からかつらをつけている。

 カラーコンタクトをつけて目の色も変えているので、完全に別人だ。

 街で知り合いに会ったとしても、そう簡単に彼女であることは気付かれないだろう。


 イナリに従って、村を抜けていく。

 大規模な街には行かず、少し離れたところにある小さな村を経由しながら進んでいく。


「イナリはそんなにすごいお尋ね者なのかの?」

「島流しになる前はひどかったな。他の国でも問題はなかったから、多分大丈夫だと思うんだが……わざわざリスクを冒す気はない。それに……」


 田んぼの並んでいる街を歩くイナリの横顔が見える。

 夕暮れに照らされた彼女は、儚げに笑った。


「私の正体が露見しては、姫様に迷惑がかかる。まあこの国に帰ってきた時点で、説教は確定しているがな……」


 それは久しぶりに見る、イナリの笑顔だった。

 昔を思い出しているのか遠い目をした彼女に、ディルは目を奪われる。


(なんにせよ、まずは千姫と会うところからじゃな……)


 ディルは景色を見ながらいつもより気持ちゆっくりと歩くイナリを見つめながらそう思うのだった――。



 長砂国は、長宗我部家が支配している国である。

 現在の当主は、長宗我部モトチカ。

 勝利のためならどんな手でも使う男だ。

 彼は当主の座を手に入れるために千姫を幽閉しているし、六国内で団結されぬよう他国に暗殺者を差し向けるような真似までする。

 当然ながら、後ろ暗いことにも精通していることだろう。


 だが以前聞いていた話と、現在のモトチカの行動にはどうにも齟齬が目立つ。

 以前、モトチカは六国全体の融和を説いていたはずだ。

 それを乱そうとしたからこそ、イナリは危険視され島流しにあったのだから。


 けれど今の彼は早急に、暗殺などの非合法な手段を遣っても六国を己が手中に収めようとしている。

 その心境の変化の理由はなんなのか。

 そしてこのような状況下で、一体千姫はどのような考えを持っているのか。

 それを知らないことには、話は始まらない。


 故にディル達は、まず千姫の居場所を探さなくてはならない。

 ということでディル達は、情報屋の下へとやってきていた。


「いやぁ、まさかイナリが帰ってきてるとはなぁ。はは、この情報、果たしていくらで売れるだろうかねぇ」

「殺すぞ?」

「嘘嘘冗談だって……だからそれ、引っ込めてくれない?」


 イナリはスッと目を細めてから、クナイを引く。

 ほっと一息ついた情報屋は、丸眼鏡をかけた女性だ。

 頬にそばかすが散っている純朴そうな見た目をしている。


「うーむ、でもまさか本当に帰ってこれるとは……隷属環もなくなってるし」

「取ったからな」


 イナリを興味深げに見ている彼女の名前はミル。

 なんでもイナリとは付き合いが長い情報屋なのだという。


「これが……瓦版というんか」

「え、ああそうだよ。余所の国から来たんなら、知らないのも当然か」


 ミルは表の仕事もしている。

 瓦版という新聞を発行している店で、記者の仕事をしているのだ。


 瓦版というのは、庶民が世間で起こった事件や災害のことを知るためのツールだ。

 わかりやすくするために絵や簡単な文字を使って説明することが多いらしい。

 どうやらヤポンの人間は識字率が高いらしく、庶民がこんな風に文字入りの出版物を楽しむことも多いようだ。


「で、欲しいのはやっぱりモトチカの情報?」

「今一番欲しいのは、姫様の居場所だ」

「ふーむ……いやでも……」


 知っているような素振りをするミルだったが、なかなか口を割ってくれない。


 イナリは懐に手を突っ込み、金貨を取り出した。

 ミルはまだ何も言わない。

 更に金貨を取り出すと、ミルの目がお金のマークになる。

 金貨を更にもう一枚積み上げると、彼女は口を割った。


「千姫なら今は、呪いの森の奥にある小屋に幽閉されてるよ。軟禁だと何をされるかわからないから、今はもう完全に人との接触を絶ってるって話」



拙作『その亀、地上最強』の第一巻が4/14日に発売いたします!


挿絵(By みてみん)



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