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わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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知らぬは本人ばかり



本来アキコの護衛としてついてきていた彼らはそのまま一度双爪国へ戻ることになった。

 アキコが引き渡される時に、ディル達は特に捕縛されたりすることもなかった。

 問題にならなかったのは、やはり当主同士での話が既に済んでいるが故なのだろう。



 それから数日後、アキコから手紙が届いた。

 そろそろ双爪を出ようという話をしていたディル達としても、ちょうど良いタイミングだ。 面会に指定された場所は、長門家の本邸だった。




「そ、その節は本当に……ありがとうございましたっ!」

「いやいや、わしらもわしらで目的は達せたからの。じゃから何も問題はないんじゃよ……じゃよね?」

「……ああ」


 不承不承という感じで頷くイナリを見て、アキコがホッと安堵のため息をこぼす。

 ちなみにその頭には、拳大のたんこぶができていた。


 家出同然に勝手に他国へ婚約者の見極めをしに行ったアキコに、長門家当主の拳骨が落ちた形である。


 折檻を受けていたと思えぬほど、アキコの顔は晴れやかだった。

 使命感に駆られていた会ったばかりの頃と比べると、どこか憑きものが落ちたようにすら見える。

 今の彼女は、ものすごく自然体だった。


 どうやら婚約者である井樋ケイショウの人となりを判断できたこと。

 そしてその相性がどうやら良さそうだということ。

 兼ねてからしたかった領外での旅ができたこと。

 それら全てが、いい影響を与えてくれたらしい。


 アキコは何をするにも、どこか必死になりすぎるきらいがあった。

 そのせいで危うさを感じる場面が何度かあったが……今の彼女なら、問題はないだろう。


「じゃあわしらはそろそろお暇を――」

「おじいちゃん。一つ朗報がありますの」

「ほう、なんでしょうか」

「一緒に来て下さいな。お父様が――長門家当主長門フミナガがお会いになりたいと」


 ディルは首を横に動かし、フードを目深に被るイナリの方を見る。

 彼女の方も軽く頷いた。

 何にせよ、顔繋ぎができるのならそれに越したことはない。

 ディルはそのまま、面会に挑むことにした――。




「どうだったんだ?」

「まあ、上々って感じじゃね。井樋ドウセツ殿の時と似たような感じじゃよ」

「そうか……」


 ディルが奥へ進んでからしばらく。

 入り口近くの樹にもたれかかって腕を組んでいたイナリの下へ、ディルがやってくる。


 二人は進みながら空を見上げた。

 既に時刻は夕暮れに差し掛かっている。

 流石に今から船が出るとも思えない。

 出発をするのは明日にしようと決めた。


 ディルは既に、着実にこのヤポンの領主達との顔合わせを進めている。

 恐らくはそれほど時間がかからぬうちに、残る三人の領主ともよしみを通じることができるだろう。


「……」

「なんだ、私の顔に何かついてるか?」


 ディルはあまりにもトントン拍子に進んでいた。

 故に彼はこんな疑問を抱いたのだ。


 ――なぜ大した伝手もないディルにもできる簡単なことが、イナリにはできなかったのだろう。


 領主の親族と関係を持ち、なんやかんやのうちに気付けば領主に気に入られている。

 そんな芸当ができる人間は滅多にいないのだと、ディルに教えてあげることのできる人間はいなかった。


 裏表もなく、本当にヤポンが平和になることを願っており。

 ヤポンのサムライ達に気に入られるだけの強さを持っている武人。

 その人柄は素朴で、その見た目はおじいちゃん。

 基本的には鈍く、けれど大切なところでは外さない。

 

 そんな人間はあなた以外誰もいないのだとおじいちゃん本人に教えることのできる人材は、残念ながら彼の近くにはいなかった。


 そのためディルはなぜじゃろう……と首を傾げながらも、変わらぬ態度を取り続け。


 結果としてヤポンにおいて、なんか良い感じになりスイスイと話が進んでいくという不思議現象が起こり続けるのだった……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 年上を敬う 強い人は尊敬する →御老公
[一言] 年食ってるというのもステータスなのですな、後人柄。 外さないのもお見事。
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