答え
「ふむ……問題ないでしょう。お互いにとって良い刺激になるでしょうし」
シゲハルは頷くと、ディルを先導し始める。
中へ戻っていると、パーティーの中心になっているのは、ぎこちないながらも楽しそうに話をしているケイショウとアキコだった。
どうやら婚約者の二人の相性は、それほど悪くはないらしい。
「アキト、御前試合をせい」
「はっ、謹んでお引き受けさせていただきます」
やってきたのは一人の男。
周囲に視線を配ると、こちらを興味深そうに見ている男が何人かいた。
とりあえず人目を引くことはできたらしい。
(じゃが……当主が誰なのか全然わからん。領主もきちんと戦えるヤポンだと、見分けるのも一苦労じゃよ)
ただ暗殺騒ぎのイメージを払拭し、両家の婚約を祝うための席だ。
間違いなく当主であるドウセツも出てきているだろう。
ディルは勝てばわかるだろうと思い直し、眼前の相手に向き直った。
こうやって模擬戦をすることが初めてではないのか、給仕の人達はやけに手慣れた様子で
料理の入った盆を片していく。
そして会場の人達も円形状に距離を取り、その中心にディルと一人のサムライが残される。
未だ年若く、年齢は二十歳前後に見える。
彼は先ほどディルのことをにらみつけていたサムライのうちの一人だった。
「いざ尋常に……勝負っ!」
青年がしているのは最上段の構え。
ヤポンのサムライとの戦いで何度も見てきた、振り下ろすこと以外の一切を捨てた捨て身の剣術だ。
一撃を防げればディルの勝ち、防げなければディルの負け。
非常にシンプルでわかりやすい。
(真剣じゃから、何かあったらわしが死ぬんじゃけど……ちゃんと峰打ちするつもりはあるんじゃろうか)
見ればアキトと呼ばれていた青年は物凄い殺気を放っている。
どう考えてもこちらを殺す気で来るだろう。
やはりヤポンは、命の価値がジガと比べると大分低い。
手合わせで殺し合い、何かあれば暗殺、シノビやクノイチ達の諜報戦。
その殺伐具合に、ディルは少々嫌気が差してきていた。
これは恐らく、未だ六国同士が争い続けていることに理由がある。
解決のためには、六国を統一するしかないのだろう。
そして恐らくこの世紀末っぷりは、目的地である長砂に近付くほどに強くなっていくことが予想される。
モトチカは暗殺をしてでも六国全てをその支配下に置きたがっているようだから。
モトチカが六国を統一したらどうなるだろうか、と想像してみる。
力による支配は、間違いなく歪みを生むことだろう。
軍事大国というのは軍事に陰りができた瞬間に潰れてしまうと相場が決まっている。
ディルは今では戦うのも嫌いではないが、毎日をゆるっと暮らすのも同じくらい好いている。
今まで通ってきた双爪や柳楼国が、ギアンのようにのほほんと暮らせる街になってほしい。 そしてそのためには――。
(イナリの考え通り、千姫に六国を統一してもらうのが一番じゃろうて。この殺伐としたヤポンの在り方を、変えてもらう……)
ディルの答えは既に出た。
であればあとは、それに向かってひた走るだけ。
「――もらったっ!!」
考え事をしているうちに、相手の剣はすぐそこまでやってきていた。
けれど問題はない。
その攻撃は既に見切っている。
ディルはひらりとその一撃を交わし、流れるように剣先を喉元へと突きつけた。
「まだやるかの?」
「――なっ!?」
こうしてディルはサムライを相手に圧勝を収める。
そして強すぎる老人に興味を持った当主によって、私室へ招かれることになるのだった――。
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