影
「まさかこれほどのクノイチが隠れていようとは……」
シゲハルは意識を失っている襲撃者を見つめながらそう呟く。
目を瞑る女子は幼子のように無垢な表情を浮かべているが、そのスキルは凶悪の一言に尽きる。
「ディル殿、かたじけない。そして申し訳なくも思う。私はディル殿がこれほどの武人であるとは知らず、礼儀にもとる態度を取ってしまっていた」
「いえいえ、老骨に鞭打ってなんとか動いているだけですよ」
「ヤポンのサムライは、強き者には敬意を表する。そして――受けた恩は必ず返す。もし何かあった時は、このシゲハルを呼んでくれ。必ずディル殿の力になってみせよう」
見ればシゲハルの周りを囲うように護衛をしていた男達のディルに対する目つきも変わっていた。
どうやら先ほどのディルの戦いを見て、彼の実力を認めてくれたらしい。
身分などではなく戦い一つでここまで態度が変わるというのが、基本的に荒事の多いヤポンらしい。
ディルは笑顔を作ってから――すぐ側にいるイナリの顔を見て、スッと顔を真剣なものに戻す。
変化を気取られぬよう、ディルはイナリの前に出る。
そして彼女を背後に隠しながら、再びの作り笑い。
にこやかな表情で、シゲハルの方へ向き直る。
「まあなんにせよ、これで一安心ですな」
「ふむ、たしかにディル殿の言う通り――これにて、一件落着である!」
こうして明らかにシゲハルを狙っていたなにがしかが謀った襲撃を、ディルは己の勘とスキルを頼りに防ぎきってみせたのだった。
「ディル殿、この襲撃者の前後関係を洗ってから情報を伝えます故、しばしお待ちくだされ……アキコ様はごゆるりとこの燭の街を観光していただければと思います」
シゲハルはそれだけ言うと、縄でグルグル巻きに縛ったクノイチを連れて歩き出す。
ちなみに側に控えていた護衛の騎士が担いでいるので、傍から見れば様子は婦女誘拐に見えないこともなかった。
意識が回復する度に再度昏倒させられているクノイチを見つめながら、アキコは呆けたような顔をしている。
「おじいちゃん……今回は一体、何をしたんですか!?」
「はぁ、ちょっとばかり……襲撃者の撃退などを」
「もうっ、あなたはちょっと目を離すとすぐにとんでもないことをしでかすんですから!」
「そ、それはアキコ様も人のことを言えないのでは……」
自分のことを棚に上げてプリプリと怒っているアキコ。
彼女の怒りのボルテージがある程度下がってくると、再び散策を開始することになった。
「……」
アキコに何かあればすぐに動けるよう、その背後を取るディルとイナリ。
けれどイナリは、あの襲撃者とディルが戦ってから、ずっと黙りこくったままであった。
ディルは何も言わず、イナリが口を開くのを待つ。
下手に急かすことはせず、ただゆっくりと歩き続けた。
するとアキコがまた買い食いに精を出し始めた時、イナリがぽつりと呟いた。
「あの装束は……長宗我部家のクノイチの衣装のうちの一つだ。恐らく今回の一件には――長砂国が関わっている」
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