差し込み
結果として、ディル達の同行は快く許可された。
基本的には食客のような扱いだが、まったく戦う必要はないと言われている。
「天気晴朗じゃの……」
「ディル、今回はどうして同行することにしたんだ? 一応私達はアキコの護衛という名目でここに来ているんだが」
「なんだかちょっと、嫌な予感がしての」
「予感、か……」
イナリはそう言うと、水面を見つめた。
既に陸から離れ、海賊達のアジトがあるという孤島目指して船は進んでいる。
ディル達が乗っているのは、合わせて五隻ある船のうちの真ん中にある、シゲハルの乗っている旗艦であった。
風を受ける帆には井樋家の家紋が押印されている。
「怒らないんじゃね」
「お前のそういった勘は、基本的に当たる。下手にシゲハルが死ねば、長門家と井樋家との間に亀裂が入りかねん以上、私達も出るべきだろう」
「そうか……」
イナリは二人の時は、千姫を除く誰に対しても敬称をつけない。
あくまでも誰の下にもつかない、という意思表示なのだろうか。
(何にせよ、海賊騒ぎなんぞちゃっちゃと済ませるが吉じゃね)
後に敵対することになるであろう長砂国。
それと友好関係を結んでいるわけではない、他の六国同士が結びつくことは、ディル達からすれば長期的に見ればプラスの話になる。
(そのための障害が出てきたのなら、取り除くしかあるまいて)
ディルは孤島が見えてくるしばしの間、戦いに備えるべくゆっくりと身体を休めることにしたのだった……。
目的地が近付いてくると、周囲はにわかに騒がしくなってきた。
見えてきたのは、二つ連なっている岩山だ。
そして近付いてくるにつれ、その山の麓の部分が見えてくる。
孤島だが、至る所に人の手が入っていた。
例えば入り口付近には明らかに船を停留させるための木製の波止場のようなものが見えており、よく見ると火を使った後だからか、何本か白い煙が上がっているのがわかった。
ディルが最も警戒したのは、井樋家の内通者による裏切りだ。
なので船の中ではなるべくシゲハルと話をして近い距離を保ちながら、しきりに攻撃の気配がないかを探っていた。
あるいは船のうちのいくつかが突如として異常を起きたり、離反が起こったりするのではないかとイナリに警戒してもらっていたのだが、どうにもそんな様子もなかった。
プロであるイナリの目から見ても井樋家とその家臣との間には確かな絆があるらしく、造反の気配は見受けられないということだった。
(わしの考えすぎだったのかもしれん。何も起こらないのなら……まあそれが一番じゃよね)
けれどこのディルの予想は外れていた。
結果的には、彼の直感は正しかったのである。
この孤島に潜む悪意は、シゲハルと彼を守ろうとするディル達に襲いかかることになるのだ。
「――シッ!!」
「ほいっと!」
逆袈裟、避けることのできぬ一瞬の間隙を縫って放たれた致死の一撃。
『見切り』を使いその攻撃のルートを知ることができていたディルだけが、攻撃を差し込むことに成功する。
「……バカなっ! 今の一撃を事前に予期できるはず――」
慌てる襲撃者に対し、ディルは不敵な笑みを返す。
「お前さんの攻撃は、見切っとるよ。なんせわし……これでも修羅場、何個も潜ってきとるからの」
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