馬車
柳楼国へやってきたディル達がついたのは、燭という港町であった。
船乗りが多数やって来るこの街では、他国や自国の色々な情報が伝わっているはずだ。
今回はイナリに情報収集を任せながら、ディルとアキコはとりあえず燭の町を散策する。
「海産物が多いですな」
「まあ港町ですからね、当然と言えば当然です」
屋台というには少々粗雑だが、いくつか店が建ち並んでいる。
基本的には米に白身魚をぶち込んだような炊き込みご飯が多い。
保存食としては干し魚なども売っていて、どれもかなり値段が安かった。
「良い香りがしますな……しょうゆの焼ける香ばしい匂いがたまりません」
「どうせなら寄ってみましょうか。別に会食の予定があるわけでもなし、情報収集がてら屋台で色々買っていきましょうよ」
「では、そのように」
ディルは従者のように振る舞いながら、アキコに言われた通りに露店でいくつか買い物をしていくことにした。
見ている中で一番気になっていた、熱した鉄板の上でご飯と魚を混ぜ合わせた料理を買うことにした。
ディルがヤポンに来て驚いたことの一つは、調味料の豊富さである。
中でも冒険者生活に使いたいと思えるほどに便利だったのは、しょうゆと味噌だ。
この二つは基本的にどんな料理にでも合う。
そしてわりと臭みなども打ち消してくれるので、ディルはヤポンを出る際には樽にでも入れて大量に持ち運ぼうと決めていた。
「こいつを二人前頼むわい」
「おうともよ!」
額に汗を流しながら鉄板をにらみつけている男は、かなりガタイがよかった。
特に腕周りの筋肉はかなりしっかりとしている。
「もぐもぐ……普段は漁師をやったりしとるんか?」
「ん? ああそうだな、時化や海賊騒ぎなんかで稼げないこともあるからな。漁師料理なんかを出して小金を稼いだりしてるんだ」
どうやら普段は漁師をしているらしい。その手で海賊船を捕らえたことも一度や二度ではないのだという。
ここらで漁師としてやっていくのなら、海賊相手にも渡り合えないとなかなか難しいようだ。
話を聞いてみる感じ、どうやらこのあたりに海賊の根城があるらしい。
けれど未だ発見に至ってはおらず、根絶には失敗しているのだという。
「まったく、高い税金を払ってるんだから、それくらいの働きはしてほしいもんだぜ」
「ほっほっほ、まあ領主様も攻めあぐねとるんじゃろうな」
この港町に出没する海賊達についての説明を聞いたら、次は柳楼国を治める井樋家についての話を聞いていく。
先ほどは不満たらたらな様子だったが、どうやら井樋家が嫌いというわけでもないようだ。 漁業に関する利権を撤廃したり、不漁だった時に融通をしてくれたりなどと、善政を敷いているらしい。
市井で言われているような話を聞き終えてから、アキコの方へと戻る。
彼女の方も彼女の方で井戸端会議に花を咲かせていた。
どうやら人の懐に入るのはなかなか得意なようだ。
「何やら面白い話を聞きましたの」
「ほう、それは一体どのような?」
アキコが語ったのは、近々井樋家の人間が海賊の現状の視察のために、この町へやってくるらしいという情報だった。
(わしにはやっぱり、世間話くらいが限界じゃね)
情報を集めてきたイナリからも話を聞き、ディル達は少し後にやってくるらしい井樋家の人間を待ってみようということになった。
この早速できた機会を、逃す手はない。
そして情報通りにそれから三日後、家紋を焼き付けた一台の馬車が到着したのだった――。
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