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わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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第二ラウンド


 グリフォンの爪の長さは、最も短い小指ですら短刀程度の長さがある。

 細く琥珀色をした鋭利な爪が、ディルの喉元を食い破らんと迫る。


「ふっ!」


 ディルは魔剣黄泉還しでそれを防御。

 くるりと円になるように剣の角度を変えていくることによって、自分より強い力を持つグリフォンの攻撃を受け流すことに成功する。


 時計回りに動いていたディルは、防御が終わった段階で軸足とは逆の左足で更に加速をつける。そしてグリフォンから受け取った攻撃の勢いに自分の脚力を足したスピードで返す刀を放った。


 やってくる一撃を警戒したグリフォンが回避動作に入ろうとする。

 しかし右前足は攻撃のために前に出しており、前傾姿勢となり重心はかなり傾いていた。


 そのためディルの攻撃は直撃する軌道だったが……やはりろ級の魔物である。

 グリフォンは空いている左手にグッと力を込めると、翼をはためかせた。

 そして通常の四足歩行の獣では明らかに無理な制動で強引に攻撃を避けてみせたのだ。


 結果、ディルの攻撃は空振りに終わる。

 ただ、決して収穫がないわけではなかった。


 ふわりとした風に乗り、グリフォンの金色の毛が空を舞う。

 ディルの魔剣による攻撃は、魔法を無力化していたグリフォンにもしっかりとダメージが通りそうだった。


「グルル……」


 警戒をしたグリフォンは高度を上げる。

 逃げるのかと思ったが、脳内に浮かんだそんな考えは即座に否定する。

 相対するグリフォンの目が、完全に戦意を剥き出しにしたものだったからだ。


 グリフォンは上空へと駆け上がり――そして空からの助走という唯一無二の方法で加速して、ディル目掛けて一直線に疾走してきた!


 迎撃をするディルにできるのは、せいぜい腰を捻って若干の勢いをつける程度。

 力で勝り、勢いでも勝るグリフォンの攻撃にカウンターを入れる隙間はないと『見切り』が告げていた。


 交差、遅れて響く己が牙をぶつけ合う高音。

 ディルの鎧に、ビッと一筋の線が走る。


(攻撃はかわしたはずじゃが……余波だけでこれとは)


 振り下ろされた爪の形に抉れた傷を見ながら、ディルは剣を構える。

 グリフォンは再度空を駆ける。

 そして十分な高度を取ってから――再度ディル目掛けて降下を開始した。


 ディルは全力で『見切り』を発動させる。

 すると今度は、攻撃を差し挟むわずかな隙間を発見できた。

 一手間違えれば自分の身体が持っていかれかねない、紙一重の回避からのカウンター。

 しかし次のチャンスがいつ訪れるかわからない以上、ためらっている余裕はなかった。


 迎撃のために、スッと呼吸を整える。

 気持ちを落ち着け明鏡止水を心がける。

 命がけのやり取りの真っ最中だというのに、またしても笑みがこぼれる。


 老境に至って自然と身につけていた、自らの命をそれほど惜しく思わないという気持ち。

 それが結果的にディルの心持ちを、戦闘狂や武芸者が持つそれと非常に近付けていた。


 特に欲もないが、こと戦いが始まれば己の命をベットすることをなんらためらいはしない。


 そんなどこか危うさを感じさせるディルの目がスッとすぼめられる。


 キリリと引き締めた眼が、グリフォンの動きを見切る。

 筋肉の動き、爪が風を切る音。

 本命の攻撃は右前足の一撃をフェイントとした、左前足による攻撃。

 全ての諸要素が頭の中に浮かび、一瞬のうちに整理されていく。

 そして結果として最適な答えが――一本の線が浮かび上がる。


「炎槍!」


 完全にディルに意識を向けていたグリフォン。

 その意識の外からやって来た魔法の槍に、グリフォンに一瞬の意識の空白が生まれた。

 線が更に太くなる。そしてディルはそのチャンスを、決して逃さない。


「シイッ!」


 ディルの一撃が、グリフォンの首筋に入る。

 鮮血が飛び散り、ディルの頬を赤く染めた。


「逃がしませんよっ!」


 恐らく先ほどの魔法とタイミングを合わせたのだろう、ソラルが放つ短剣がグリフォンの身体に突き立つ。

 一連の攻撃を受けたグリフォンが、きゅうと弱々しい鳴き声を上げた。


 グリフォンはそのまま、空へ駆け上がろうとする。

 これが空を飛べる魔物の厄介なところだ。

 彼らはやられそうになれば、すぐに己の領域である空へと逃げてしまう。

 けれどこんな時のための対処法も、ディルは己の胸ポケットにしまっている。


「これでも――くらえいっ!」


 ディルが投擲したのは、イナリから譲り受けた恐怖心を克服する興奮剤。

 それを頭から浴びたグリフォンの目が、ドンドンと充血していく。

 そして駆け上がり逃げようとしていた身体をくるりと翻し、再度ディルの方へと向かってきていた。


 ただしグリフォンが降りたとうとしている場所にいるのは、もう一人だけではない。


「よしっ、ここから第二らうんどじゃっ!」

「無理して横文字使わなくていいのよ、おじいちゃん!」

「不本意ですが……やるしかありません、ねっ!」


 こうしてグリフォンVSディル・ソラル・リンダの臨時パーティーによる戦闘が始まる――。

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