激突
「クアアアアァァッ!!」
そのフォルムは、話に聞いていた通りの異形だった。
鷲の顔、獅子の身体。翼は身体を支えきれるとは思えぬほどの大きさしかないが、自由に空を駆けている。
全身を覆う体毛は白く、その体長はディル二人分はあるだろう。
その瞳には、まるで知性を宿しているかのような理知的な静けさがある。
高位の魔物は人に勝るとも劣らぬだけの頭を持つという。
(もしかするとあのグリフォンは、わしなんかよりもよっぽど頭がいいのかもしれんの)
ディルがグリフォンってどうやって学を身につけるんじゃろうと考えているうちにも、事態は進んでいく。
グリフォン目掛け、魔法使い達が放った魔法が飛んでいく。
風の刃、水の弾、炎の槍、土の礫……パッと見ただけでその数は十は超えている。
魔法だけではなく、長弓を使った遠距離からの弓による狙撃も混ざっている。
それらの攻撃を見たディルは思った。
(あれじゃあ届かんじゃろうて)
ディルがそれらの攻撃を見ても、マザールビーアントと戦っていた時に感じていたような、チリチリと首筋を焼き焦がすような警戒と危機感が感じられない。
自分にとって危険にも思えぬのだから、グリフォンにとってはどうかなど、考える必要すらなかった。
「クルオオォォォォン!」
グリフォンは魔法を歯牙にもかけずに吼えている。
最近良くなってきた視力で観察をしてみると、魔法はグリフォンに傷一つつけることはできていなかった。
けれど視覚が塞がれることにイライラしてか、グリフォンの様子は怒っているように見える。
魔法の火の玉は体毛に焦げ目一つ作ることはできず、水の刃は皮膚に届く前にただの水に変わってしまっていた。
どうやら相当、魔法に対する抵抗力が高いらしい。
ドラゴンやグリフォンのような強力な魔物達の中には、低威力の魔法ではダメージを与えられないものもいると聞いたことがある。
どうやらあのグリフォンには、生半な魔法攻撃では傷をつけることはできないらしい。
ウェンディのように威力の高い魔法が使える者がいればまた話は変わったのだろうが、遠くに見える冒険者達はその技量には達していないようである。
そして観察を続けるうちに、ディルはあることに気付いた。
「魔法よりかは弓の方が効くみたいじゃね。毛が何本か宙を舞っとる」
「……目、いいんですね。それだけお歳を召していても、老眼とかとは無縁なんですか?」
「ああ、老眼は最近治っての」
「老眼って治るものなのかしら……?」
見れば長弓の鏃が当たった部分は毛が切れていた。
どうやらグリフォンを相手にする場合は、物理攻撃の方が都合が良いらしい。
だとするとディルにも活躍できる場面は多そうだった。
「クルルルルッ!」
鬱陶しい地上からの攻撃に思うところがあったからか、グリフォンが空から降りてくる。
翼をはためかせてこそいるものの、その様子は空を飛んでいるというよりかは空を駆けていると表現した方が近いように思えた。
四肢を動かしながら、まるで見えない足場を蹴っているかのように、グリフォンは軽やかに地上へと降り立つ。
「ぐあああああっ!!」
「おいっ、誰かポーションを!」
そして降りながら、その鋭利な爪を冒険者へと向ける。
たった一撃で鋼鉄のブレストプレートが、飴細工か何かのように簡単に裂ける様子がよく見えた。
その男を下がらせるため、仲間の冒険者達が前に出る。
けれどグリフォンにもてあそばれるだけで、有効打はまったく与えられていないようだった。
このままでは彼らは、為す術もなくグリフォンの餌食になってしまうだろう。
街にグリフォンが来かねない危険な行動を取ってはいたとはいえ、彼らは何か罪を犯したわけではない。
やられるのを黙って見ていられるほど、ディルは薄情な人間ではなかった。
「ちょっくら加勢に行ってくるとするかの」
「死にますよ?」
「死なんよ、それに……」
老い先短い自分が死んだところで、とはもう思わない。
ディルはこのヤポンで、やらなければいけないことがあるのだから。
『見切り』を使い、駆ける、駆ける、駆ける。
「――え、速っ!?」
「……ほう」
風を切りながら、距離の近付いていくグリフォンに集中していたディルに、後ろから聞こえる声に耳を傾ける余裕はない。
全力で駆ければ、すぐそこに白い体躯がある。
「シッ!」
「グルッ!?」
ディルが振り下ろした黄泉還しが、グリフォンの肌を浅く裂く。
まさか攻撃が通ると思っていなかったからか、グリフォンが驚いて後ろに下がる。
だがすぐにディルを敵と見定めて、グルグルと唸った。
対しディルの方は、グリフォンを見てにやりと笑う。
そして両者は――激突した。
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