妖怪
「ほう、これは……」
ディルはお菊から情報を聞き出し、ヤポンの冒険者ギルドへとやってきていた。
魔物の被害を受けている国には、やはり貴族の持つ私兵達だけでは人手が足りないということのなのだろう。
冒険者ギルドという名称は、ヤポンもジガ王国と同様だ。
けれど名前は同じといっても、その中身はずいぶんと違いそうだ。
建物から中で働いている人間から、まったくの別物に見える。
まずギルドの建物は木製で、横に広く長い平屋だ。
中には椅子がなく、受付嬢達は皆立って仕事をしている。
所々にゴザが敷いてあり、どうやらそこがテーブル代わりになっているようだった。
見ているとそこに座っては話し込んでいる様子の冒険者パーティーがおり、彼らは張り出されている依頼を見て何やら話し合いをしている様子だった。
屋敷の内部はずいぶんと違うが、不思議なことに冒険者達の見てくれはジガ王国とそれほど変わらない。
髪型も額をそり上げまげを結ういわゆるちょんまげだけではなくて安心した。
見ている限り、ディルがそれほど浮くこともなさそうな様子だ。
「ようこそ、冒険者ギルド相良支部へ」
この街は相羅の国の相良という場所らしい。
細かい街の名前は気にしていなかったが、どうやら相羅の国はかなり大きいようで、いくつかの地域に分かれているようだ。
ジガ王国という一つの国の中で生まれ育ったディルからすると、街サイズの国があったり、一つの中でいくつも細かく地区に分かれているという感覚は、いまいちわかりづらかった。
受付嬢はヤポンの和服に身を包み、髪はしっかりと結って上げている。
化粧もジガと比べると厚めで、頬はピンク色になっていた。
「冒険者登録がしたいんじゃが」
「……確認しますが、依頼ではなく冒険者登録でお間違いないですね?」
「もちろんじゃ」
耄碌した年寄りが世迷い言を言っている……という態度を取られるのにはもう慣れている。 なのでディルも対処の方法は心得たものだ。
彼はにこにこしたまま、受付嬢を見つめ続けた。
するといつものように、相手の方が先に根負けしてくれた。
「銀貨1枚になります」
「はい、これで問題ないかの?」
ジガとは違い人物の横顔の掘られていない、どこかのっぺりとした銀貨を手渡すと、受付嬢が紙を持ってきてくれる。
ヤポン特有の和紙と呼ばれるその紙には、たしかにディルの名前と冒険者ランクが記されている。
冒険者ランクの欄には、と級と記されていた。
このヤポンのギルドにおいて一番下のもの、ジガでいうところのEランクと同じと考えればわかりやすい。
当たり前だが密入国してるわけで、「ジガではCランクじゃ!」などと主張ができるはずもない。
ヤポンでやっていくには、下からまたコツコツと頑張る必要がありそうだった。
もっとも期限が決まっている今のディルには、そんなに悠長にしている時間はないのだが。
「等級はい・ろ・は・に・ほ・へ・との七つに分かれています。妖怪や魔物の討伐から薬草の採取に至るまで、ギルドが仲立ちした依頼を達成していけば等級は自然と上がっていきますので」
「妖怪……ものすごく初歩的な質問なんじゃけど、妖怪と魔物は何が違うんかの?」
その質問には慣れているからか、立て板に水とばかりにすらすらと答えが返ってくる。
どうやらあらかじめ、マニュアルが用意されているような自然な口ぶりだった。
「妖怪というのは、平たく言えば我らがヤポン特有の魔物ですね。これがヤポンにだけ出る理由は諸説ありますが、近年では我が国が持つ地脈がその理由というのが一番有力な説ですね」
地脈というのは、簡単に言えば大地から湧き出る魔力のことだ。
魔力を浴びた動物が魔物になるという話だから、要は特殊な魔物が現れるだけの特殊な地脈がヤポンにあるということなのだろう。
「別に魔石とかもあるし、細かい部分は魔物とは変わらんじゃろ?」
「はい、その認識で問題ありません。強いて言えば妖術という、魔法と少々趣の異なる力を操るところくらいでしょうか。何か変なことをしてきたら、あいつは妖怪だ! くらいの認識で大丈夫だと思いますよ」
他にも説明はいくつかあったが、ジガのものとそれほど違いはなさそうだった。
だが説明を聞くうちに、ディルに一つだけ気になることができた。
別にディルは戦闘狂というわけではない。
けれど目的を達成するため戦うことに抵抗があるほど、安穏とした冒険者生活を送ってきたわけでもないのである。
「のう、お嬢ちゃんや」
「あ、失礼しました。私イナミと申します」
どこかイナリに似た名前をする彼女に少しびっくりするディルだったが、気を取り直して話を続ける。
「その昇級バトルというやつを、わしも受けたいんじゃが」
「え――ええっ!? 正気ですか、ディルさん!?」
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