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わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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邪魔


 八州は六国と同様、八つの勢力が陸地の上で争いを繰り広げている地域である。


 八州は六国と比べると倍程度の面積があるため、勢力一つ一つを見てみても六国のそれより領土は大きいことが多い。


 けれど八州は常に戦火が絶えず、農民ですらサムライを斬り殺すと噂されるほどの修羅の国でもある。

 トータルの収穫高は六国の方が多いほどである。

 八州の人間はさほど農耕を重視していないのだ。


 そんな話ばかりを聞いていたから、八州ではあの出鳥島に負けず劣らずの無法が繰り返されているのかと思い、気張って足を踏み出したディルであったが――。






「もぐもぐ……平和じゃねぇ」

「なあに年寄りくさいこと言ってんだい、おじいちゃん。まだまだ若いもんには負けないくらいの気概がなくちゃあ」

「いや、若い子達と張り合うのに少し疲れたんじゃよ……」


 彼は今、平和を満喫していた。


 ディルがもぐもぐと頬張っているのは、ヤポンにある米という穀物を使った団子という菓子である。


 ディルがヤポンにくるにあたって一つ気になっていたのは、食文化の違いである。


 事前にイナリから、ヤポンでは麦は嗜好品であり、主に食べることになるのは米や、それに雑穀を混ぜた雑穀米であるということを聞いていて、実は内心ビビっていたのである。


 ディルは米というものを、人生で数えるほどしか食べたことがない。

 そして彼の記憶の中では、米というのは決して美味しい食べ物ではなかった。


 べちゃべちゃとしていて、味がせず、妙な香りは強く……というネガティブな印象が強かったのだ。


 持ってきていたパンを食べきって戦々恐々としていたディルがそこで見つけたのが、この団子屋の『あたご』である。


(そういえばイナリとの集合場所も団子屋じゃったなぁ)


 と思い出したディルは、せっかくの機会だしと思い切って中へ入ってみることにしたのである。

 それがまさかのまさか、大当たりだったのだ。


 まず『あたご』の店内の様子は、ジガ王国にあるようなカフェとは大きく違っていた。

 中にテーブルはあるが、椅子がないのである。


 その代わりに床にはゴザと呼ばれる敷物が敷かれており、その上にででんとテーブルが乗っている。


 そう、この団子屋の中では客は靴を脱いでからゴザの上に座り、あぐらをかいく。

 そしてテーブルの上に運ばれてきた団子を食べるのである。


 ディルは初めてのことなのでちょっと面食らったが、見よう見まねでやっているうちに慣れてしまった。

 これがなかなかどうして悪くない。


 感覚として近いのは、ベッドの上でご飯を食べるあの感じだ。

 けれどテーブルがある分、こぼすことを気にしなくて良い。

 みればゴザにも汚れがついており、ある程度汚れることも織り込み済みなようである。


 ディルは以前着ていた襤褸布を着ているので、頓着することなく団子にかぶりついた。

 この団子というのが、なかなかの美味なのである。


「わしは米は好かんのじゃけど、この団子は美味しいのぉ」

「そりゃあ米って言っても色々種類があるからねぇ。短粒中粒長粒のどれかによっても粘り気は変わるし、餅米や赤米、黒米なんてものもある。全部食べてみないで米がダメだなんてのは、バカの言うことさ」

「ほっほっ、たしかにその通りじゃね」


 バカと言われてもまったく顔色を変えないディルに、今度は店員の娘の方が驚いている。


 彼女の容姿は、一般的なヤポン人そのものだ。

 黒髪に黒目、髪を結っていて、結って団子状になった髪に綺麗なかんざしが差してある。 着ているのは簡素な和服で、今は湿度が高いからか丈は七分あたりまでしかない。


「お客さんは変な人だねぇ……」

「それもよく言われるのぉ」


 ディルは微笑みながら、机の上に乗った団子に手をつける。

 この店にある団子は三種類あった。


 醤油と呼ばれる調味料で味付けてから海苔という海藻を干して薄く延ばしたもので巻いた物。

 きなこというよくわからないものをまぶしたもの。

 あんこというよくわからないペースト状のものを上にのっけたもの。


 二つもよくわからないものがあるので、ディルは醤油で味付けをしたものばかりを食べていた。


 これは少しだけ甘いが基本的にしょっぱく、そしてもちもちとした食感なのでかみ応えがあり、なかなか腹持ちが良さそうな気配がする。


 ダンジョンによる連戦の結果か、以前より身体ができあがり健啖家になっているディルは、ペロリと十個ほど団子を食べてしまった。


「あーごめんねお客さん、もう磯辺団子は売り切れだよ」

「ふむ……それじゃあ、よくわからない黒いのが乗っている方を三つほど頼む」

「よく食べるねぇおじいちゃん。団子はよく噛まないと喉に詰まって死んじゃうから、気を付けなくちゃダメだよ?」

「え、これそんな危険物じゃったの?」


 ディルのすっとんきょうな顔を見てあっはっはっと高笑いした店員は、店の奥の方へと入っていった。

 そしてほどなくして、追加注文された団子を取って戻ってくる。


 黒いペーストは、よくみると中に何かが入っているのがわかった。

 何か丸いのが入っているのが見えたせいで、逆により怪しく見えてくる。


(これ、どんな味がするんじゃろうか……)


 ディルは聞いてみたい衝動に駆られたが、そもそもディルが密航してこの八州へやって来ていることを知られてしまっては元も子もない。


 ディルはさも『わし、この団子めっちゃ食べ慣れていますけれども?』みたいな顔をして、団子をぱくついた。


(あ……甘いっ!?)


 その謎の団子は、びっくりするくらいに甘かった。

 団子を噛んでくるうちにしみ出してくる甘さとは次元の違う、砂糖の暴力のような甘さ。

 恐らくは何かを潰してから、大量の砂糖なり蜜なりと一緒に混ぜ合わせたものだろう。


「お茶のおかわり、もらってもええかの?」

「これだけ頼んでくれたし、サービスするよ」


 そう言って出してもらったのは、ヤポン特有の緑色のお茶だった。

 これも紅茶に慣れたディルからすると、大分慣れないものだ。


 ずいっと啜るヤポン流の飲み方で茶を流し込むと、口の中にやってきた苦みが、甘さを打ち消してくれる。


 この緑色の茶、緑茶独特の苦みは、嫌いではなかった。

 なんでもイナリの話では、葉っぱが色づくより早い段階で収穫をすると緑茶になるのだという。


 人生のほろ苦さを知っているからか、ディルはこの緑茶が大のお気に入りだった。


 苦いのを交互に口に入れていけば、不思議と暴力的な甘さも気にならなくなってくる。


 ディルは無事に団子を平らげ、お腹いっぱいになることができた。


「ふぅ……ごちそうさま」

「はい、お粗末様でした」


 食べ終えるときにはごちそうをありがとうの意でごちそうさま。

 それに対して作った物は、自分の物は大したものじゃないとお粗末様と返す。


 このあまりにへりくだったやり取りも、ヤポン独特の物だ。

 けれどディルも随分と、ヤポン流の応対には慣れてきた。


 さて、お腹はいっぱいになったからお代を払おうかと立ち上がったディルが立ち上がったその時。


「おうおう、邪魔するでぃ!」


 いきなり屈強な護衛二人を引き連れた謎の男が、店内へズカズカと入り込んできたのである。


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[気になる点] 紅茶も緑茶も緑の茶葉からつくる物ですぜ
[一言] 邪魔するんやったら帰ってやー。
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