表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

166/228

ぶらり


 八州から六国に行くまでの方法は、当たり前だが密航しかないわけではない。


 戦国時代で各国同士で争いが起きるのは世の常だが、八州と六国はそれぞれ海によって隔てられているために、争いが起きる頻度はそこまで高くはない。


 八州と六国の国はそれぞれ隣接する国同士で戦うので精一杯であり、わざわざ海を挟んだ先にある飛び地へ遠征をする者は多くない。


 それに下手に争いをするよりも、両国間で人と物を行き来させて経済を活発化させた方が、よほど両国にとってのためになる。


 そういった考えの下、八州と六国の間を往復する定期便は多い。

 基本的には問屋等が漕いでいる商船がほとんどだが、頻度こそ少ないものの人を往来させるための往来船と呼ばれる船も存在している。

 ある程度金を払えば、問題なく乗ることができる。


 業者を経由したせいで大分換金のレートはふっかけられたが、それでもディル達が迷宮で今まで稼いできた金額は決して少額ではない。

 ある程度両替商にもっていかれたとしても、まだかなりの大金が残っていた。


 少なくとも当座の資金繰りに関しては困る心配はない。

 けれど金銭面ではない理由で、ディル達はその船に乗ることができなかった。

 正確な言い方をするのなら、往来船にはディルしか乗ることができないのだ。


 往来船に乗るにあたり、かつて犯罪者であったことを示す墨が入っていないか、もしくは現在進行形で追われている者ではないかという、最低限の入船審査がある。


 恐らく……というか間違いなく、イナリはその審査をパスすることができない。

 島流しというのはれっきとした刑罰であり、イナリは墨こそ入っていないものの、立派な元犯罪者だ。

 恐らくは人相書きが出回っているだろうし、顔と特徴から一発でアウトになるのは間違いない。


 既に島流しにあった奴隷であり、ヤポンに再度入国されることを許されていないイナリ。


 彼女は本来暮らしていた六国に、正規のルートで入ることはできないのだ。


「私は単身六国に潜入する。お前と一緒に居れば何がどうなるか、わかったものじゃないからな」

「了解した」


 そう言ってディルから少し離れたところで腕を組んでいるイナリ。

 彼女の首筋にあるスカーフからは、その地肌が見えていた。


 ――イナリは既に、奴隷から解放されているのだ。


 今回ヤポンに来るにあたって、ディルはイナリを奴隷から解放し、自由民という身分へと上げることにした。

 隷属環のせいで自由な行動が妨げられてはマズいから、という判断である。


 解放する際には、ヤポンという国の事情が特殊であることが幸いした。

 向こうからこちらにくるにあたって奴隷として下げ渡されていただけであるために、本来の犯罪奴隷のように拘束期間の縛りがなかったおかげで、すぐに解放することができたからだ。


 今のイナリは、正真正銘自由の身になったことになる。


 だからといって、別れて行動をすることに不安があるかと言われれば……そんなものはまったくない。


 ディルとイナリのは、短くない時間を共に過ごしてきた。

 二人の間に繋がる絆は、そう簡単に断ち切れるものではないのだ。


 こうしてディルとイナリは二手に分かれ、それぞれ六国へと向かうことになった。






(まあわしの方は、ただ船に乗るだけなんじゃけど)


 八州から六国行きの船はあるが、六国全てへ向かうことができるわけではない。

 イナリは六国ではかなり人相が割れているため、侵入には慎重を期さなければならない。

 イナリは千姫がいる長砂国から一番離れている国から、ゆっくりとバレないように入国するつもりらしい。


 けれどディルはその身体的な特徴ががっしりとしていたり、顔の彫りが深かったりと、その特徴こそ大陸人だが、歳を取っているためにその辺は問題がなかった。


 黒髪が多いというだけで、ヤポンの中にはイナリのようにそれ以外の髪色も者もいるし、瞳の色もそれと同様だ。


 大陸と言語も共通しているので言語の壁というやつもない。

 ディルは田舎から観光に来た老人といえば、ヤポンでは怪しまれることもなく普通に行動をすることができるのだ。 


(さて、次の短砂国行きの船は十日後か……)


 六国の構成を簡単に説明すると、この六つの国は縦に二列、横に三列という形で合わせて六つの国がくっついているような状態だ。

 本州から独立した一つの島で、その大きさは大体本州の四分の一程度。

 八州と比べてもその大きさは半分ほどであるため、六国を一つの勢力として見ても、それほど大きくはない。


 左上から時計回りに


短砂国→鉄火国→長砂国→狛国→柳楼国→双爪国という風になっている。


 六国は山脈なども多く自然に囲まれているため、開発可能な土地はそれほど多くない、

 だがその分、峻険な山々や森林で暮らしてきた六国の者達は、ゲリラ戦を得意とする者が多いらしい。

 野武士等も多くそこまで治安はよくないらしいが、今のディルであれば盗賊の類を心配する必要もない。


 ディルとイナリは、国から最も離れているということで、まずは双爪国で落ち合う手はずになった。

 双爪国にある、イナリの古なじみがやっている団子屋『だんご皆たらし』。

 そこが二人の待ち合わせ場所になる。


(十日間は、暇じゃのう……)


 どこかへ消えてしまったイナリを見送ったディルは、早速暇を持て余すことになった。


(まあ、ええか。この機会じゃし、ゆっくりヤポンの観光でもして時間をつぶすことにしようかの)


 ディルは物珍しいというのもあって、一人でヤポンをぶらぶらと歩き始めるのだった――。


【しんこからのお願い】


この小説を読んで


「面白い!」

「続きが気になる!」

「応援してるよ!」


と少しでも思ったら、↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!


あなたの応援が、しんこの更新の原動力になります!

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 最高に面白いです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ