終わって
マザールビーアントとの戦いは終わった。
けれど残敵掃討はまだまだ続いていく。
全体の頭を潰しただけでは、戦いは終わらない。
むしろこれからのことを考えれば、まだまだ戦いは始まったばかりなのである。
まず第五階層では、とにかくルビーアント達の数を減らすための戦いが始まった。
以前からソルジャールビーアントを狙い撃ちしていたため、ルビーアントを統率できる個体の数は大きく減っている。
けれどルビーアントの数自体は、べらぼうに多い。
今でも空いている穴からは、わらわらとルビーアントが湧き出し続けている。
ディルはルビーアントとの戦いの興奮冷めやらぬ中で、ルビーアント達をとにかく殺し続ける作業へ切り替えて、戦闘を続けることになった。
イナリの毒をとにかく広範囲に、できるだけ湧き出す穴の近辺に滞留させることで、新たにやってくるルビーアントの数を減らす。
そしてその中をくぐり抜けてきたルビーアント達をディルやウェンディが漏らさぬように殺していく。
この連携を崩さぬよう、ディル達は『無銘』だけで一つの区画の討伐を請け負うことになった。
結果としてマザールビーアントと戦っていた時よりも、その後の戦いの方がよほど疲れてしまったほどだった。
だが結果としてディル達は今回の討伐作戦の大殊勲者でありながら、更にはルビーアントの討伐数が最多のパーティーにもなった。
とりあえずルビーアント達の侵攻が止まり、作戦終了が言い渡され帰還することになった時。
ディル達『無銘』を、凄まじいまでの拍手が迎えてくれた。
ディル達は断ったにもかかわらず、胴上げをされたほどだ。
イナリも相変わらずの仏頂面だったが、付き合いが長いディルには、彼女が案外まんざらでもなさそうなことが見て取れた。
彼らの功績は瞬く間に広まり、一躍サガンの迷宮における時の人になった。
今ではもう、ディルとイナリを見ても好事家と奴隷の妙ちきりんな組み合わせだと笑う人間はいない。
二人の実力を、サガンで冒険者を生業にしている者達が、その目で見るか、見た人間の話を聞いているからだ。
ディルは今やサガンの街に出ても顔を指されるような有名人である。
普通に外に出歩くことも、なんだか少しやりづらい気分だった。
ディルのBランクへの昇格の話も出たらしいが、Cに上がってからまだそれほど日が経っていないということもあって今回は見送られた。
大殊勲を上げたディルのランクが上がらなかったことにウェンディと黒騎士は不満だったようだが、それをとりなしたのはディル本人だ。
ディル本人としては、今回の結果得られたものに関して満足していたからだ。
彼は個人的にウェッケナー子爵に呼び出され、話をしていた。
「君が心配するようなことには絶対にしないから、安心していいよ。僕の方からしっかりとなんとかするから」
そこでディルは、しっかりとギアンやトカ村が被害を受けないという旨の、太鼓判を押してもらったのだ。
これでディルがどこかへ行ってから、マリル達が危険な目に遭うかもしれないという不安は完全に消えた。
「じゃからこれでいいんじゃよ。これ以上物なり声援なりを受けたら、わしの方が参ってしまうわい」
ディルの言葉に二人とも矛を引っ込め、結果として問題も起こらなかった。
ディル達『無銘』はその後も、とにかく大量に存在しているルビーアントの駆除へと駆り出されていた。
他の冒険者たちも概ね似たようなものであり、サガンの街はもうずっとてんやわんやの状態だ。
バグラチオンがサガン迷宮の機能を復活させ、転移水晶で階層へと移動。
そしてルビーアントをただひたすらに狩りまくって、階層を掃除。
そうしたらまたもう一つ下の階層の機能を復活させて……という感じで、サガン迷宮の機能自体は徐々に戻りつつあった。
最初はで第五階層から始めた修復作業も、現在では第十七階層まで取り戻すことができているらしい。
恐らくそう遠くないうちに、サガン迷宮は完全に息を吹き返すだろう。
ディルとしては、このサガンでできることが全て済んだ以上。
次のことを考えなければならなかった。
無論それは、イナリのことである。
彼女を治すために必要なものは、バグラチオンから教わっている。
それを持ってくることができれば、私がその特製ポーションを作ってやろうとも言われているため、あとは本当に素材を集めるだけだ。
だがその素材は、一筋縄ではいかないものばかりだった。
ヴァンパイアの血核(ヴァンパイアは心臓に核があり、それを割らない限り不死性を持つ)やドラゴンの逆鱗(触れればむやみに暴れ回るため、通常殺してから剥ぎ取らなければ入手できない)のような入手難易度の高いものがほとんどを占めており、完成までにいったいどれほどの時間と手間がかかるのかもわからない。
なので今は、イナリの事情――つまりは彼女がヤポンからこちらに島流しにされてきた事情を解決することがもっとも優先される。
次にディル達が目指すのは……あらゆる国と国交を絶っており、鎖国と呼ばれる状態を続けているヤポン本国である。
そこで幽閉されている、イナリの主君である千姫を助けるのだ。
イナリのようなクノイチが多くいるヤポンでは、彼女一人に全てを任せるわけにはいかない。
ディルは今後のことを考えれば、少しでも信頼できる仲間がほしいところだった。
正直なところ、ディルとしては知り合った者達の中でも何人かに、ついてきてほしいと思っていた。
だがことはヤポンへの不法入国であり、果たして帰ってこられるかどうかもわからない不確定要素の多い旅だ。
シアのように守る人のいる者に頼むことはできないし、かといってまったく信頼の置けない者達をとりあえず連れていくというようなこともできない。
ディルはルビーアント討伐に精を出しながら、今後のことを考え続けていた。
そして答えが出せぬうちに、サガンの街はかつての繁栄を取り戻していく。
結果としてディルはウェンディたちに話を通すことのできぬまま、どんどんと時間が経過してしまったのだった……。
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