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わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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決戦 3


「kyoaaaaa!」

「――相変わらず、攻撃が通りづらいっ!」


 マザールビーアントの甲殻は硬い。

 その硬度は、ディルの黄泉還りと比べても遜色ないほどだ。


 甲殻だけではない。

 マザールビーアントの足先や触覚、あらゆるものがとにかく硬い。

 関節の継ぎ目すら硬く、まるで金属を全身に張り巡らせたかのようだ。


 後ろの二本の足を支えにして、その尖った足先で突きを放たれる。

 ディルは黒剣を横にして、その攻撃を捌くことに徹した。


 マザールビーアントのラッシュが始まる。

 前足による突きに、強靱な顎による噛みつき攻撃が続く。


 だがそれだけならば、現在のディルであれば受け流し、反撃を差し込むこともできる。


 『見切り』を継続的に使い続けることによって、ディルの感覚はより鋭敏に研ぎ澄まされていく。


 ――強烈な違和感。


 ディルはその原因がわからなかったが、咄嗟に後退した。


「kisyaaaaa!」


 先ほどまでディルがいた場所に、真っ赤な色をした液体が飛んでいた。

 その液体が地面にぶつかると、ジュウジュウと音が鳴る。

 出てくる煙と、一瞬にして枯れた草から、ディルはその正体を即座に蟻酸だと看破した。


 これまでの攻撃に加え、蟻酸を飛ばす遠距離攻撃まで加わったことになる。

 今までになかった攻撃パターンだ。


 いったい何故……と考えながら、ディルは再度前に出る。

 蟻酸を吐き出す前には、若干溜めの動作が入

る。

 一度見た以上、二度目から避けることもそう難しくはないだろう。


(マザールビーアントも……成長しているということかの)


 ディルはガイウスと戦った頃と比べ、マザールビーアントの攻撃に変化が出てきたことを感じ取っていた。


 攻撃方法が多彩になったこともそうだが、この魔物は生き物と戦うやり方を、徐々に身につけつつある。


 ディルが入れたフェイントにも徐々に引っかかりづらくなっており、それどころか自身でフェイクを入れるようにすらなっている。


 知能がある魔物は、これだから厄介だ。

 放っておけばおくほど、この魔物は強くなっていくことだろう。


 ディルは前足を切り落とそうと剣を振り上げ、急ぎ引いたルビーマザーアントの甲殻の継ぎ目を正確に狙い撃つ。


(……前と違って、継ぎ目の攻撃も入りづらくなっとるな)


 魔物も人間同様、魔力を使い魔法を操ることができる。


 恐らくはここにくるまでに、マザールビーアントは己の魔力の扱い方を覚えてきているのだ。


 なんらかの魔法的な効果が働いているのだろう、攻撃の際の手応えは以前よりも明らかに軽くなっていた。


(もしかしたらこの魔物は、まだ生まれたてなのかもしれん。じゃが、だとしたら……生まれてからさほどの時間が経たずに、ここまで育ったことになる)


 ディルは魔物の成長速度については、人間より早いという程度のことしか知らない。


 だが一度干戈を交えた経験から、このマザールビーアントの学習速度が尋常ではなく高いことは察することができた。


 今はまだ己の身体を硬くすることや、蟻酸を吐くことを覚えた程度だ。


 だがもし今後、更に己の能力を磨かれれば……もしかすればディルの剣では、届かなくなるかもしれない。


 だとしたら――。


「今この場で倒すしかあるまいて……っ!」

「kyowaaa!」





 ディルが剣を振る。

 狙う箇所は、以前と変わらず甲殻の継ぎ目だ。


 幾合かの撃ち合いにより、マザールビーアントの身体の強度にはバラツキがあることがわかっていた。


 右半身よりは左半身が。

 そして上半身よりは下半身の方が脆い。


 恐らく魔石が心臓にあることが関係しているのだろう。

 魔石に近い場所ほど魔法がかかりやすく、その分硬度が上がる。


 そのためディルは基本的に相手の後ろ側を取ろうと、横と前に動くように意識していた。


 マザールビーアントが前足を使えば、その分だけ上半身に体重が掛かり、後ろが疎かになる。


 相手が前に出れば、ディルも合わせて前に出る。

 そして交差の瞬間の攻防を可能な限り自分有利に進め、そしてくるりと振り向きざまに一撃を当てる。


 的確に弱点を狙った突きを繰り返すことにより、マザールビーアントのもっとも左後ろにある足が、明らかに硬度を落としていた。


 どうやら硬くなる魔法にも伝達率があるらしく、傷をつければ硬度は落ちるようだった。

 

 同じことを繰り返すことさえできれば、問題なく戦うことができるだろう。


 ディルは自分の状態を確認するが、若干息は上がっているものの大きな傷は負っていない。 戦闘の継続はまだ十分に可能だ。


 周囲の状況を確認する。

 イナリは順調にルビーアント達の息の根を止めている。


 現在は黒騎士とイナリが二人がかりでウェンディを護っている状態だった。


 ルビーアント達雑兵をイナリが、数は減れど未だ健在なソルジャールビーアントを黒騎士が倒している。


 さすがにあの様子では、助太刀を頼むことはできそうにない。


 交差の一瞬のうちに、耳を研ぎ澄ます。


 周囲からは蟻の歩く音以外の異音はない。

 近くに居る冒険者たちの援護も期待できそうにない。


 だが、どうしてだろうか。

 ディルに不安はなかった。


 いや、むしろ――。



「kuruoooooooo!」


 ディルが全力で放った突きが、マザールビーアントの硬化した関節を打ち抜く。


 そのままグリンと刃を突き入れ、穴を拡げる。

 そして刃を引くようにして切ると、ようやっと後ろ足の一本を落とすことができた。


「身体が軽い……ふふっ、まだまだ行くぞい」


 むしろ楽しさすら感じながら、ディルは一人嗤う――。



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[一言] ジジイ強くなり過ぎて、強者にしか見えない。
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