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わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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決戦 1


 大きな穴が空き、もう何度見たかも覚えていないほどに見慣れた、蟻の大軍が現れる。

 その先頭をゆくのは、マザールビーアントである。


 ディルにはその様子が、自分の後をついてこいと他の蟻達に示しているように見えた。


 マザールビーアントの様子を確認しているうちに、ディルは自らの身に起きている変化に気付いた。


(遠くのものが……前よりずっと、よく見えるようになった気がする)


 ディルは本を読もうとすれば、近付けたり離したりしなければならないような老眼である。


 そして彼は元々の視力もそれほどよくない近視でもあったために、今まであまり遠くのものを見ることはできなかった。


 けれど今、ディルの目には遠くでガチガチと顎を鳴らすマザールビーアントの様子がよく見えている。


 視力が向上した……もしくは、元に戻ったのだろうか。


 自分の眉間をもみもみと揉み再度目を開くと……さっきまでの鮮明な映像が嘘であったかのように、いつも通りのぼやけた光景が広がっている。


 勘違いだったのだろうか。

 にしては少しばかり鮮明過ぎた気もするが……。


(……まあ、なんでもええか。今は)


 気持ちを切り替え、ディル達『無銘ネームレス』は蟻の大群へと向かっていく。

 一糸乱れぬ隊列を敷く彼らの顔に、不安はまったく浮かんではいなかった――。





 この第五階層での攻防において、ギルドはいくつかの防衛ラインを設置している。

 そのうちの最終防衛ラインとされているのは、もっとも内側に存在している小さくいびつな円だ。


 皆が帰還ができるよう転移水晶を囲むような形でできているこの円を、守りながら可能な限り敵戦力を削ることが今回の任務である。


 ディル達『無銘』は、いくつかある同心円のうちの最も外側、一番多くの蟻達と戦う激戦地で戦うよう命じられていた。


 この最前線に配置されているのは、ディル達を含めた深層冒険者ばかりである。


 ただ実際の所、配置というのは名ばかりで適当に分散させて強力な冒険者達を散らせているだけだったりする。


 何か規制をされたり、上がこうしろという風に命令をするだけでは冒険者達が完全に力を発揮することはできないということを、皆はここにいたるまでの攻防で理解していた。


 そのため今回、ディル達に課せられた命令は一つだけ。


『好きにしていいから、結果を出せ』


 要は蟻さえ倒せれば後のことはどうでもいいという、自由裁量をもらった形だった。


 マザールビーアントの討伐を行う場合、パーティー単体で行うより強力なメンバーを集結させて討伐隊を組んでことにあたった。


 けれど選抜隊の力を以てしても、マザールビーアントにはあと一歩のところで逃げられてしまう事態が続いていたのは、ディル達としても苦い記憶だ。


 自由を愛する冒険者達に最もよりよい結果を出させるには、やはりある程度自由にやらせた方がいい。

 上の人間は作戦行動を続けていくうちに、そういう結論に至ったらしい。


 そしてその考え方が正しいことを、『無銘』のパーティーは証明することとなる――。






 ディルが大きくのけぞる。

 すると先ほどまで彼が居た場所に、極太の光線が通った。


 ディルと干戈を交えていたソルジャールビーアントの上半身が蒸発し、バランスを失った下半身がどさりと倒れる。


 その死体の上を、大量のルビーアントが通っていく。

 自分達に命令を下していた上位種の死体を踏みにじりながら、ルビーアント達は進軍を続けた。


 それを圧倒的な武威で押さえつけるのは、呪いの武器を完全に使いこなす黒騎士だ。


 彼の拳打はルビーアントの甲殻の内側へと衝撃を与え、彼の振り下ろしは硬い甲殻ごとその身体を一刀両断にする。


 タックルでルビーアントの頭部が凹み、踵落としはその身体を踏み抜く。


 そのすぐ近くでは、ディルが己のスキルをフルで使い戦闘を続けていた。


 やって来るルビーアントに対して、もっとも効率的に攻撃のできる最適解を選び続ける。


 ある時は甲殻の継ぎ目から肉体を断ち切り、かと思えば足を潰してからその甲殻ごと心臓を刺し貫く。


 自分を包囲しようと蟻が迫ってくることを、心配する必要がない。



 ディルを蟻の群れが包囲すれば、道を切り開くかのように、ウェンディの魔法による援護が放たれる。


 ディルや黒騎士が体力の限界を感じた場合、即座に後退する。


 そこにはイナリが張った毒による煙幕があるため、ルビーアント達はディル達の姿を見失う。


 ディル達は既に解毒薬を服用しているため、毒にやられる心配はない。

 また周囲の冒険者達とはかなりの距離があるため、他の冒険者達を巻き込む必要はない。


 それはイナリの毒だけでなく、ウェンディの魔法も同様だ。


 イナリの毒が擬似的なバリアの役目を果たしているため、彼女の下まで蟻がやってくることはない。

 そして離れた場所から、ウェンディは己の魔法の高すぎる威力を気にすることなく、バンバンと魔法を放つことができている。


 ディル達『無銘』の周囲からは、明らかにルビーアントの数が減り始めていた。

 彼らが敵を殲滅する速度が、他のパーティーよりも圧倒的に速いのだ。


 ディル達は自由であればこそ、最大限の実力を発揮できる。


 おじいちゃんに、シノビ装束の少女。

 そして魔法の威力が高すぎるからこそ誰とも組めなかった魔女に、周囲を傷つけてしまった黒騎士。


 統一感がなく、一見すればちぐはぐにも見えるこのパーティーは、しかし今この瞬間……この階層にいるどの冒険者達よりも輝いていた――。

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[一言] ウェンディ! 黒騎士! のびのびと戦ってね! イナリ、ディル。 あー… やりたいよ〜に…(笑)
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