マザールビーアント
マザールビーアントは、後ろ足二本で器用に立ちながらディル達のことを睥睨している。
その複眼は、もっとも近い位置取りをしていたガイウスの方へ向いた。
「ふむ……報告通り、少し硬いか」
ガイウスは自ら目掛けてやって来るソルジャールビーアント達の群れを切り伏せながら前進していく。
難なく一刀両断しながら、わずかに目を細める。
違和感こそあるものの、大した問題にはならないらしい。
このままでは徒に戦力を浪費するだけだと察したのか、マザールビーアントが周囲の蟻たちを後方に留め置き、自分で前に出た。
ディルと黒騎士は更に前に進み、ソルジャールビーアントの処理へ回る。
その処理が終われば、マザールビーアントを挟み撃ちする心算だった。
「行くぞ」
ガイウスが剣を上段に構え突貫、マザールビーアントは四つ足になり左右に動く。
動きが素早く、まるで分身しているかのように残像が見える。
ガイウスはその高速移動を見て、迷わず剣を水平に構え直した。
横薙ぎがもっとも効果的だと判断したからだ。
横薙ぎが振るわれると、マザールビーアントはなんとそれを頭突きで受けた。
今までソルジャールビーアントを一蹴していたガイウスの攻撃は、しかし頭突きに跳ね返される。
「これは……硬いな、俺の魔剣と打ち合うか」
横薙ぎを弾かれた反動を使い一回転、勢いを足して再度逆の横薙ぎ。
それも頭突きで受けられ、再度剣が跳ねる。
跳ねた剣を強引に制動し、振り下ろす。
狙いは頭突きが通らない胴体部分だ。
ガイウスの振り下ろしよりも、マザールビーアントの動きの方が早い。
マザールビーアントはそれをかわそうとしたところを……足へ飛んできた魔法攻撃のせいで動きがワンテンポ遅れる。
「ガイウス様っ、今です!」
「おおおおおおおおっ!!」
後ろからあったアビゲイルの援護により生まれた僅かな隙。
ガイウスは雄叫びを上げながら、力を込めて剣を振り下ろす。
ガインッ!
胴体と剣の打ち合う音。
頭突きと比べると、反動は弱い。
見れば小さいが、傷が入っていた。
「shiiiiiii!?」
マザールビーアントの甲殻が傷つくのだから、内側にはしっかりと衝撃が入る。
たしかなダメージを与えられたことを確認しながら、ガイウスが二撃目に入る。
しかしそれを、周囲の蟻達によって止められる。
蟻達による襲撃に対処しているうちに、マザールビーアントがその隙を突こうと動いてくる。
剣ではその全てに対応することはできず、ガイウスは攻め手を緩めることを選択した。
マザールビーアントはそれを好機と捉え、果敢に攻める。
ガイウスがルビーアントに剣を突き込んだタイミングを狙い、ガチガチと顎を鳴らして噛みつき攻撃をしてきた。
完全に無防備な状態のガイウスは……しかしまったく動じてはいない。
「助かる」
「ふうんっ!!」
マザールビーアントの甲殻の隙間を縫うように放たれる、一本の黒剣。
黄泉還しは的確にマザールビーアントの胴体と首の間の継ぎ目に沿うように、スッと刃を通す。
「決まったの」
「ああ」
悲鳴を上げるマザールビーアントに対し、ガイウスはルビーアントが刺さっている剣をそのまま叩きつけた。
鈍器の要領で放たれたその攻撃が、マザールビーアントの頭部に直撃する。
「syaaaaaaaa!!」
苦痛の呻き声を上げながら、マザールビーアントは大きく後退した。
ディル達の攻撃は、たしかに通じている。
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