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わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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異変


 赤皇帝ガイウスのリーダーであり、精神的な支柱でもあるガイウスは、パーティーメンバーと共にザガンの迷宮の深部、第二十九階層へと潜っていた。

 そして彼は今、第三十階層へと続く転移水晶に触れている。

 いつものように最奥部にいるボスを倒そうとしているところだった。


「……」

「……? どうかされましたか、ガイウス様?」

「少し待て」


 だがガイウスは、皆が不思議そうな顔をしても顔色一つ変えず、転移を行おうとしない。

 パーティーメンバーであるアビゲイルは、いつも通りに最奥部へ行こうとするのをためらう、ガイウスの態度に疑問を覚える。

 いつもやっていることを何故かためらっているガイウス。

 こんな彼を見るのは、久しぶりのことだった。


 だがアビゲイルを含めて、赤皇帝のメンバーはリーダーのその態度にも文句一つつけない。

 それは彼らがガイウスという絶対的なリーダーのことを信じているからだ。


 彼は大切なところでは、絶対に間違えない。

 必ずと言っていいほどに、正解に近い解答を出す。


 ガイウスのこういう時の感覚――危機を察知する能力を疑う者は、パーティーに一人も居ない。

 彼らはそのおかげで何度も危機を避けることができていたからだ。

 ガイウスが何も言わないのも、彼が確証を得るまではメンバーに根拠のない理由を述べないからだということも知っている。


「嫌な予感がする。俺は一人で第三十階層を探索させてもらう。お前達は一度戻り、待機していてくれ」

「ガイウス様、それなら私も一緒に――」

「必要ない。何故なら俺がこの中で一番強いからだ」


 それは理由になっていないが、ガイウスの言葉に文句をつける者はいない。

 彼の言葉は基本的にはぶっきらぼうで思いやりが欠けていること。

 だが彼の行動原理はいつも、心からパーティーメンバーのことを思ってのことだ。

 それを赤皇帝の皆は知っていた。


 恐らくガイウスは、地下で起こっている何かの異変の兆候を感じ取った。

 そして何があっても自分一人なら生き残れるとわかっているからこそ、一人で行くと言いだしたのだ。

 彼は危険が迫った場合、まず自分で対処しようとする。

 そして赤皇帝においては、それが間違いだったことは一度もなかった。


「それほど時間はかからないはずだ。リッター、お前はギルド長といつでも面会できるようにアポを取ってくれ。シリンは他の深層攻略者に、しばらくは迷宮に潜るなという伝言を伝えるように。それと――」


 簡単な指針を示してから、ガイウスは一人でサガンの迷宮の最奥部へと跳んでいった。

 赤皇帝のメンバーは、彼の言に従い一度迷宮を出て、己に課された仕事をこなし始める。


 そして皆が夜になり一度集まり、迷宮の入り口が見える位置に陣取った。

 彼らの中にガイウスの姿がないことを訝しむ冒険者たちをさらりと受け流しながら、彼らは待った。

 そして夜が明けようとした時――ガイウスの姿が見えた。


「が、ガイウス様っ!?」


 現れたガイウスの格好は……半裸であった。

 残っている服も、何かに食い破られたかのように虫食いになっていて、彼の細身だが筋肉の付いた身体が剥き出しになっている。

 アビゲイルはガイウスの元へ駆けて行き、着ていた上着をその上にかけてやる。


「一体第三十階層に、何があったのですか――?」


 第三十階層に出てくる魔物は、白兜蛇と呼ばれる強力な毒を持つ蛇型の魔物だ。

 そしてボスはそれを一回り大きくしたような、白甲冑蛇。

 どちらも酸性の液体を吐き、服を溶かしたりはしない。

 ガイウスの現状は、彼が抱いていた懸念が事実であることの証拠だった。

 彼は、自分を囲むパーティーメンバーへぐるりと視線を向けてから、ゆっくりと口を開いた。


「スタンピードが来るぞ」

「なっ……何故です!?」


 捕食者がいなくなったり、強力な個体が現れて群れを統率した場合、魔物の生息地における生態系に著しい変化が起こることがある。

 スタンピードとはそのような異常が起きた結果に起こる、魔物の大規模な氾濫のことである。


 ただ通常、ダンジョンでスタンピードが起こることはない。

 そもそもダンジョンは先代文明の遺産であり、魔物の個体数などは変化がないように調整されているためだ。

 それにダンジョンは転移水晶を介して転移する物であり、各階層は別々の空間である。

 そのため森や渓谷のように、魔物が押し出されてやってくるということはありえない。

 故にその疑問が出るのは、当然のことだった。


「そこまではわからん。第三十階層よりも下があったのか、外来種が勝手に縄張りを造り出したのか……まぁどちらでもやることは変わらない」

「魔物の種類は一種類ですか?」

「ああ、アント系の魔物だ。サンプルとして、死体も持ってきてある」


 ガイウスは背嚢から、魔物の死骸を取り出した。

 皆が目にしたのは、人間と同程度の大きさの頭部を持つ、真っ赤な蟻だった。

 その大きさは、小さな子供ほどだろうか。

 間違いなく、今まで迷宮で見たことのない新種の魔物だ。


「こいつらがなんであれ、早急に対応をしなければサガンの街にまで被害が出る可能性がある。お前ら、すぐに動くぞ」

「「「はいっ!」」」


 ガイウスはギルドへ向けて歩き出す。

 今まで起こったことのない異常事態を前にしても、彼は何一つ変わらない。

 赤皇帝はリーダーの変わらぬ様子を前に、より信頼を強固にしていた。


 ガイウスは一人、笑いながら首を鳴らす。


「まさかこんな形で、共闘することになるとはな……ディル」


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