鑑定士
鑑定士とは、ある種の技術職である。
というのも彼らは鑑定という魔法を磨き続け、それで飯を食っているからである。
鑑定魔法を使える人間はそこそこ多い。
しかし鑑定を依頼人が満足できるレベルで使える人間というのは、それほど多くない。
どういった効果を持つのか、耐久性がどれくらいあるのか、どれくらいの価値を持つのか……etcetc。
そういったいくつもの要素を見極め、正確な価値を伝える鑑定士という職業を名乗ることは、ジガ王国では厳しい認可制となっている。
鑑定士は一級から三級までにわかれており、鑑定ギルドも存在している。
一流の鑑定士ともなれば、一回の鑑定でかかる費用が金貨数枚になることもある。
ディル達が調べたところ、サガンには一級から三級、そしてもぐりの非公認鑑定士まで数多くの人達がいた。
話をした結果、ディル達が選んだのは二級鑑定士である。
三級にどんな魔道具かが理解できるかわからないし、一級を呼び出すほどに品物からオーラというものも感じない。
二級もピンキリらしかったが、そのランク帯の中では割と上の方の人間に鑑定を頼むことにした。
鑑定屋ティンブクツーの中は、何もない殺風景な場所だった。
鑑定士というのは割とイメージ戦略というものが大事だったりするので、店の中は薄暗いことが多い。
占い師がやるように自身の存在を神秘的なものに見せることで、鑑定結果にも信憑性を持たせるというわけだ。
だが目の前にいる鑑定士は、どうやらそういう詐術とは無縁のようだった。
「ふむふむ、なるほど……」
厚いビン底眼鏡をかけた男は、ティミッドという。
彼はディルたちが差し出した魔道具を見ながら、あごに手をやっていた。
「触っても?」
「問題ない」
イナリの許可を得て、魔道具を手に取った。
水色のブレスレットが、店内の明るいランプに照らされてきれいに光っている。
ティミッドは細かく角度を変えては、ブレスレットとにらめっこしている。
まるで相手を睨んでいるような表情だった。
ディルは鑑定される経験が初めてだったので、少しびっくりしながらあたりを見渡す。
しかし、彼のようにあたふたしている人は他にいなかった。
ウェンディがディルの様子に気付き、近付いてくる。
そして鑑定の邪魔をしないためかやや抑えめの声で、
「鑑定の魔法って、こういうものですよ」
「わし、初めて見るからびっくり」
「なんでも物に浮かんでいる情報を読み取るらしいです。情報量がとっても多いらしくて、それを完全に読み取るのには大分時間がかかるとか」
たしかによく観察して見ていると、ティミッドが凝視しているのはブレスレットよりも少し上のあたりだった。
じっとりと額に汗がにじんでいるその様子は真剣そのもの。
どうやら鑑定の魔法は、かなり奥が深いらしい。
下手に集中力を乱すのもいかんじゃろうとジッと待つことにする。
一分、二分、三分……沈黙が満たす空間の中で、時間がゆったりと流れていく。
一体どれくらいの時間が経っただろうか、ティミッドがバッと顔を上げる。
ディルたちはみんな、鑑定結果を教えてもらうべく身体を前に出した。
達成感に満ちている彼は、自信満々な顔で教えてくれる。
「このブレスレットは――魔物の死体を、土に変える魔道具です!」
「お……おぉ?」
ディルは正直、どんな効果を持っているのだろうと期待していた。
だがなんだか、思っていたよりもしょぼそうじゃ。
周囲の反応を見るべく、ディルはくるりと仲間たちの方を見る。
するとただ一人―――イナリだけが、興味ありげな顔をしていた。
「おいティミッド、詳しく聞かせろ」
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