宝箱
剥ぎ取りによって得られる魔物素材や、倒れていった冒険者仲間の武具の入手を除けば、
ダンジョンから産出されるパターンはたった一つ。
今ディル達の目の前に置かれている、宝箱と呼ばれるものがまさにそれだ。
ディルはとりあえず、ゆっくりと進み宝箱がよく見えるくらい近くにまで歩いていく。
「これが宝箱なんじゃね」
「好奇心から触れたりするなよ? 毒が塗られていたり、中からガスが噴き出したりするものもある」
宝箱の処理はイナリに任せようと、一歩引き彼女が手に取るのを眺める。
じっくりと観察してみると、それはディルが想像している、いわゆる世間一般が予想しているものとは違っていた。
宝箱とまず言われてイメージするのは、四角いブロックの上に、円柱を半分に割った形のものが置かれており、その二つを蝶番が止めているというものだ。
だが今目の前にあるのは、ただの石の塊だった。
苔が生えているような、レンガサイズの石である。
離れていても、少々かび臭い匂いがしてくる。
石の縁は金で覆われており、その側面には刺青のような模様が同じく金で描かれている。
恐らくはあれが、宝箱の開閉を司る古代文字か何かなのだろう。
「ふむ……」
イナリは何かの魔法を使い注意深く観察してから、宝箱を手に取る。
そしてそこに、魔力を流し込み始める。
宝箱は、力任せにこじあけることができない。
魔力を通すことで、自動で開く仕組みになっているのだ。
パカリ、と一瞬で宝箱は開いた。
先ほどまで継ぎ目などなかったはずの石が開き、中身が出てくる。
そして二つに割れた宝箱はそのまま、さらさらと砂になって消えていく。
あとにはイナリの手のひらの上にある、中身だけが残った。
「これは……何かの魔道具だろうな」
「そうじゃね」
現れたのは、水色をしたブレスレットだった。
意匠は凝っていて、羽根をたたんだ蝶のような見た目をしている。
色から察するに、水に関連したなんらかの効果があるのだろう。
イナリは黒騎士へちらと視線を向けると、それを無造作に投げる。
パシッとナイスキャッチをした彼は、それをしげしげと眺めてから、
『これに呪いはかかっていない』
と教えてくれる。
残念ながらメンバーにこの魔道具の効果はわかるものはいない。
下手に扱って誰かが戦闘不能にでもなってはつまらないので、中では最も重厚な黒騎士に持っていてもらうことにした。
今回の探索の目的は、第七階層にあるボス部屋の攻略だ。
皆の肉体的な疲労はそれほどではないが、ここまでやってくることと、ボスとの戦いによって精神は摩耗している。
ボスとの連戦ができるほどの元気は残っていなかったので、今回はさっさと切り上げてしまおうということになった。
一体どんな効果があるのだろうかと、おじいちゃんは本来の目的を一旦脇に置きるんるん気分である。
こういうところを楽しんでいかなければ、これからの長い探索生活を続けることなどできないだろう。
ディルに釣られてか、他の面子も表情が明るい。
皆、魔道具につく値段を期待してほくほく顔だった。
一行がそのまま向かうのは、鑑定士と呼ばれる職人のいる店―――通称鑑定屋だ。
一体この魔道具にどれくらいの値段がつくのか、本職の人間に見てもらうのである。
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