愛用
無事黒騎士が常時加入できるようになったところで、迷宮行の休みの日がやって来た。
ディルはその日、前々から気になっていたとある懸念事項を解決しようと、黒騎士を呼び出していた。
「どうもどうも」
「……や」
どういう心境の変化か、ディルが頼んだわけではないのに黒騎士は私服でやって来た。
いつも甲冑を着けている昔と比べれば、これは大きな進歩だろう。
格好は厚手の服で、ボディラインが出ないようになっている。
中性的な見た目から、近くで観察してもやはりどちらの性別だと断定はできないような身なりだった。
基本的に言葉を発さなかった黒騎士だが、最近ほんの少しだがディル達に話しかけてくれるようになった。
甲冑を外したように、心の防壁も一枚一枚外れているのかもしれない。
口数はかなり少ないので、話をすることは難しい。
小脇に抱えている黒板は、相変わらず意思疎通には必須のアイテムだった。
一般に開放されている広場の方へとやってきたディル達。
迷宮が近い場所にいるため、ここらに集まっている人間も冒険者達がほとんどだ。
彼らは皆、思い思いに修行をしたり連携の確認をしたりして鍛錬に励んでいる。
ディル達は皆の邪魔にならないように、端の方に歩いて行き陣取った。
『……で?』
「ああそうそう、今日はこれのことをちょっとばかしね」
やっぱり基本は筆談の黒騎士にそうっと取り出したのは、彼が鞘に入れている魔剣黄泉還しだ。
これはディルにとってはただの使い勝手のいい武器だが、呪われた武器だ。
元の持ち主はこれを持ったせいで寿命が縮んだという話だし、もしかすると今もディルの身体になんらかの異変を起こしているかもしれない。
これを持ってから腰痛が減っていたので、ディルとしてはかなり助かっている。
だがこれが呪いの武器であることは知っていたし、副作用的なものがないとは言い切れない。
そこで生まれながらに呪具を扱うことに関しての才能を持っているらしい、黒騎士に詳しく見てもらうことにしたのだ。
「グッ」
頼んでみると、凄く無表情なまま親指を立てられる。
どうやら快諾してもらえたようだった。
ガイウスは呪具には二つの種類があると言ってたけど、この黄泉還りは一体どっちなんじゃろう。
ディルはそんな風に考えながら、とりあえず言われた通りに剣を地面に置いた。
「これ、普通の人が直接触れるとマズいらしいから気を付けてね」
「……了解」
黒騎士は地面に置かれた剣の周囲を歩いて回りながら、何かを確かめているようだった。
そして……彼はディルの忠告を無視して、むんずとその手に剣を掴んだ!
思わず立ち上がって止めようとするディルだったが、手のひらを向けられそっと制止される。
しばらく黙って見ていたが、どうやら黒騎士の頭髪や見た目に変化は表れてはいない。
呪いに強い体質というのは知っていたが、問題はなさそうだ。
剣の呪いが弱いのか、それとも黒騎士が呪いに強すぎるのか。
とりあえず彼がしたいようにさせてからしばらく待っていると、黒騎士がゆっくりと板に文字を書き付け始めた。
『これは―――多分だけど、呪いの武器じゃないと思う』




