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わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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問題


 ディル達は今回、黒騎士を伴い迷宮の中へと入っていた。

 その階層は第二十三階層、出てくる魔物は魔法を使うゴーレム達が集団で襲いかかってくる階層だった。


 ウェンディの使う魔法こそ通りにくくはあるが、イナリとディルの近接戦闘で対応の利く相手である。

 そんな対応に困っているわけでもない相手の出てくる階層に黒騎士を連れてきたのは、彼のたっての願いがその原因であった。

 何が目的なのか、三人ともそれを理解してはいたが問いただす真似はしなかった。

 彼が自分から言い出さぬ以上、それを強引に聞き出すのはマナーに反していると感じたのだ。


 四人で第二十三階層へと飛び、イナリに索敵を行わせる。

 生物ではないために気配を探りにくいゴーレムを苦心して見つけてから、イナリは敵の居る方位とその数を伝える。

 敵の数は三で、アイアンゴーレムとブロンズゴーレムが混ざった編成だった。


 ゆっくりと向かっていく最中、先頭を行くイナリの後ろについている黒騎士がしきりに後ろを振り返っては、ためらって再び視線を前方に戻す。

 その不器用さに内心で苦笑してから、ディルは待った。

 問いただすのではなく、彼が自分から自発的に言葉を発するのを待ったのだ。

 しばしの沈黙、それを裂いたのは全員が思っていたのに違わず黒騎士であった。

 彼は筆談でなく、口を開いて告げた。


「私に任せてくれ」


 それはひどく中性的な声だった。

 男のような角張りと、女性のような滑らかさ。

 あっけらかんとしている快活さと粘ついているような後ろ暗さを感じさせる不思議な声音だった。

 叫び声以外、まともな声を聞いたことのないディル達は驚いた。

 だが冒険者に必要な慎重さは忘れず、あくまでも心の中に動揺を押しとどめて先へ進む。


 しばらく進み、イナリが二本の指を左右に振る。

 敵が近くに居るというサインだった。

 交差する皆の視線を通り過ぎるように、黒騎士が前へと出る。

 その行動に対し、文句をつける者はいなかった。


 黒騎士が一人、突出した形になる。

 ディルは急ぎその後ろに立ち、いざとなれば援護できる位置に陣取った。

 イナリは彼より少しばかり冷ややかで、投擲武器が届く範囲内で、暴走した際の抑えとして動けるような位置を保っていた。

 ウェンディはとりあえず魔法がぶっぱなせるよう、いつもの位置を保っている。

 そんな三人の様子を見つめ、黒騎士が頷く。

 ディルにはその様子が、それでいいと自分たちを肯定しているようにも見えた。


 黒騎士が、敵へ駆けていく。

 当然のことながら、ゴーレム達が彼の来襲に気付いた。

 まず最初に迎撃態勢に入ったのは、一番近い距離に居たブロンズゴーレムである。

 黒騎士は先手必勝とばかりに、持っている剣を薙ぎその胴体を真っ二つに断つ。

 だがそれでゴーレムの動きは止まらない、彼らは核を破壊しない限りその動きを止めることはないからだ。


 上半身だけになりながらも攻撃をしてくるゴーレムに対し、黒騎士は今までではあり得なかった冷静さで対応した。

 相手の攻撃をわざと食らったり、動物的本能で避けるのではなく、あくまでも自然体なままでその殴打を躱したのだ。

 そして伸びた手を剣で切り、相手の心臓部分を壊すために一撃、二撃、三撃と突きを繰り出し続けた。

 目も眩むような速さで放たれるそれは、以前とは違いしっかりと剣筋が見えるような整然とした理を内包していた。


 二体目、三体目のゴーレムの攻撃をいなしながら執拗に加えるその攻撃を見て、ディルは頷く。

 彼は任せろと言われた言葉に従い、自分から手を出すことはしなかった。


 黒騎士がとうとう、一体目のゴーレムの動きを停止させた。

 そしてその要領で二体目、三体目の攻撃へと移る。

 同じ行動を繰り返すうち、彼の動きは最適化されより効率的になっていく。

 三体目を倒すまでの時間は、実に瞬き三つ分程度のものでしかなかった。


 ディルは一応剣を構え、息絶えたゴーレムを見つめる黒騎士へと近付いていく。

 そしてくるっと振り返った彼を見て確信を深めてから、こう尋ねた。


「大丈夫かの?」

「……ああ、大丈夫だ。苦労をかけたな」


 黒騎士は、武具の持つ呪いを克服するに至ったのだ。

 これでようやく、彼は正真正銘のパーティーメンバーになったのである。


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