デート
考えた結果、ディルは己の思うところを黒騎士に全て打ち明けることにした。
思い立ったら吉日とばかり、彼は次の休みに入るとすぐに彼と行動を共にし、自分が思うところを伝えてしまうことにしたのだ。
ディルの体力が急に増えたりしない以上、黒騎士と冒険を共にする時には彼の攻撃をいなすことを考えると、戦うことに制限がつきやすい。
その問題さえ解決することができるのなら、黒騎士は今のような補充要員というか、仮メンバーとでもいうべき状態から脱却できるのだ。
黒騎士が諸問題をそう簡単に解決できるとは思ってはいない。
だが例えば、黒騎士の狂乱状態が少しでも短くなったりであったりだとか、あるいは彼が敵と味方の区別をしっかりとした上で暴れてくれるようになってくれたりだとか、そんな風に小さな変化の一つでもあるだけで随分マシになってくれるはずだ。
それに黒騎士自身、自分があくまでも非常勤のような立場なせいかディル達から一歩引いた所にいようとしている節もある。
ディルは彼を引きずり出し、もっと自分たちの側へと引っ張ってしまうつもりだった。
ガイウスの言葉が関係していないと言えば嘘になる。
だが彼自身が求めたことでもある。
行動の理由を誰かに求めるつもりは、ディルにはなかった―――。
『なるほど』
ディル達は特に店に入ったりすることもなく、名前もついていない小高い丘の上で隣り合っていた。
やって来て早々自分の考えを開陳すると、しばし沈黙が続いた。
そして帰ってきたのが、綺麗な筆記体で書かれたその四文字だった。
ディルは岩の上に座り、黒騎士は相変わらず口を開かず、厳重に鎧で身を包んだままで立っている。
全身鎧は、着るのも脱ぐのも一苦労と聞いたことがある。
ちゃんと座れる場所を用意した方がよかったかもしれない。
木陰の岩の上に座っていると、木漏れ日が黒騎士の黒い甲冑にあたり、その上に浮いている薄い錆を露わにさせていた。
黒騎士がくるりと、騒々しい音をあたりに撒き散らしながら振り返る。
スリットから除いている瞳が、ジッとディルのことを見つめている。
『呪いを克服する、ということは私にとって非常に難しい。何故なら前にも話したが、私は生まれ以て呪われているからだ』
ディルは以前彼が酒を飲んだときに、ポロリとこぼしたその来歴を思い出す。
黒騎士はたしか半陰陽と呼ばれる両性具有の生まれであり、そのおかげというかせいというか呪いの武器の取り扱いが上手いのだという。
『呪いを克服しよう、という考えが一度も思い浮かばなかったわけではない。だが呪いとは言わば私の身体の一部であり、それは共に生きるものだという意識が私の中にはある。こういう意識で呪いと対話をしても、決していい結果は出ないだろう』
ディルは黒騎士が、自分という存在に自信を持っていないことを理解していた。
彼が呪いを克服するためには、自分という人間をも克服する必要がある。
―――となれば、やることは一つじゃ。
ディルは立ち上がり、黒騎士の方をジッと見てから笑った。
「よし、それなら二人で出掛けよう。鎧を脱いで、私服の状態での」
黒騎士はがっしゃんがっしゃん甲冑を動かしながら、凄まじい勢いで首を振った。
だがディルとて、状況改善に必要なら手を差し伸べるに否はない。
「一緒に遊びに行くんじゃ。なぁに、そこまで気を張る必要もあるまい。相手は所詮、ジジイなんじゃから」
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