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わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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110/228

中身は

 ディル達は第十六階層を抜けて人心地ついたところで、親睦会を行うことにした。

 これから長い期間一緒に行動をする時間をするパーティーになるのだ、仲を深めておいて損はない。

 ディルは最近金銭感覚が狂ってきてるのぉと自覚しながらも、アルレンというサガンの街で上の下のグレードに位置する店に予約を入れた。

 ドレスコードがなく堅苦しさを感じないような店の中では、もっともグレードの高い店だ。

 一応私服を着ていったのだが、ディルの私服はほつれが酷くなり始めている麻の服だ。

 従業員も流石に笑顔がひきつっていたが、チップを渡すとすぐに良い笑顔へと変わった。

 ディルはまた一つ、世の中の世知辛さを知ったのだった―――。




「それでは、このパーティーの今後の発展を願って……乾杯!」


 ディルが樽型のジョッキを上げるのに合わせて、皆が己の持つカップやグラスを軽く振る。 既にテーブルの上には量と質を兼ね合わせた料理が湯気を立てながら鎮座し、それを各々が好きなように取り皿に取っていく。

 コース料理ではなく敢えて大皿料理を頼むのは、誰かに何かを強制されるのを嫌う冒険者のやり方だ。

 あまり酔いすぎないようちびちびと舐めるように酒を飲みながら、ディルは顔を綻ばせる。

 長生きはしてみるもんじゃ。

 村で暮らしてた頃は年に数度しか飲めなかった酒が、いつでも気軽に飲めるようになるとは……昔のわしに言っても信じんじゃろうな。


「あ、ディルさんどうぞ」

「つつつ……入れすぎ入れすぎ、わしぶっ倒れちゃうから」


 中身がなくなっているのに気付いたウェンディが、凄い勢いでお酒を注いでくれる。

 瓶を逆さにするくらいの勢いで入れているので、満タンを通り越してジョッキから酒が溢れ始めており、既にディルの手はびしゃびしゃだ。


 今日は一日休みを取ってから集合にしたので、ウェンディの格好はいつも見ているものとは随分違った。

 いつものようなとんがりの三角帽子を今日は着けておらず、着ているのもローブではなく上下が一緒になった黒のワンピースだった。

 いつもの魔女のような格好と違い、今の彼女は肩に光沢のあるマントを乗せているのと、胸のポケットに手持ちサイズの杖が入っていることを除けば普通の格好だ。

 服装を少し変えるだけで、印象は大きく変わるものだなぁとしみじみするディル。

 今のウェンディは秘密多き魔女というよりは、魔法学校に入ったばかりの見習い魔法使いに見えた。


「ウェンディ、ありがとう」

「はい……どういたしまして?」


 強力な遠距離攻撃を放てるその力は、中層で留まっていていいような代物ではない。

 恐らく彼女をしっかりと使いこなせるようなリーダーさえいれば、彼女は今頃最下層でトップを張るグループの一端を担うことになっていだろう。

 それを仲間に引き入れられたのは、望外の幸運だ。

 願わくばウェンディも、自分たちとパーティーを組んで前よりも幸福度の高い日々が送れていますように。


「それを言うなら私こそありがとうですよ、ありがとう返しです」

「そうか、それなら良かった。でも、ありがとう返し……?」

「真面目に聞き返さないで下さい、恥ずかしくなってくるので」


 ウェンディが珍しく小ボケをかましたのだと気付き、カカッと笑う。

 彼女もディル達のことを気の置けない仲間だと思ってくれているのかもしれない。

 酒が進むわいとこぼれぬよう首をジョッキへ向けていき中身を飲むと、向かい側に居る真っ黒な男が目に映った。


「…………」


 それは飲んでいる、というよりは浴びているという表現が適切なように思う。

 私服参加という話だったにもかかわらず相も変わらぬ完全武装でやってきた黒騎士は、一応酒を手に持ってこの団らんに混ざっている。

 彼はジョッキを上に掲げ、兜に開いている小さな隙間に酒を流し入れていた。

 口に沿うように孔が空いている訳でもないので、今の黒騎士は顔全体に酒をぶっかけている状態のはずだ。

 酒は目に入ると痛いと聞いたことがあるのだが、一言も悲鳴を上げずに凄い勢いでジョッキを空けている。

 本当に飲めているのかは甚だ疑問だった。


 ていうかあれはもう顔から垂れて、全身酒まみれなんじゃ……。

 黒騎士の鎧への執着を舐めていたかもしれん。


 実は普通に私服で着て、神秘のヴェールに包まれていた彼の素顔が明らかになるというパターンをちょっぴり期待していたりもした。

 だがどうやら彼が鎧を脱ぐのは、まだまだ先のことのようだ。


「お前、それじゃあ全身酒まみれだろ。それに今日は無礼講だ、そんな物騒なものは端に置いて騒げ」


 イナリの言葉を反芻し―――黒騎士はそのままコクンと頷いた。

 え、そんな簡単に脱ぐの!?

 ディルの内心は驚きとドキドキでいっぱいである。

 いや、もしかして実はかなり酔ってるんじゃ……ということはここは強引にでも鎧を着せたままで……いやいや、でもたしかにどんな人なのかは気になるし、とディルが逡巡しているうちに黒騎士が兜に手をかけた。

 ガシャンと関節部分から音を鳴らしながら、彼が兜を取る。

 その中から表れたのは―――。

次回の更新は3/6です

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 誤字報告機能をオープンにされていないので、こちらに書かせていただきます。 >彼女もディル達のことを気の置ける仲間だと思ってくれている 「気の置ける」とは気を使う必要のある間柄という…
[一言] 鎧を脱いだらまた鎧だったりしてw
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