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わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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中層へ

 イナリがウェンディを連れてどこかへ行ってしまったその明後日。

 ディル達は再び三人になって迷宮へと潜った。


 同じパーティーメンバーと行った階層までしか行けないという迷宮の転移水晶の性質上、ディルとイナリのペアとウェンディは別れて行動する必要があり、第十階層で再度合流するまでには約一日の時間を必要とした。


 といってもディル達はかなり早いうちから到着し、ウェンディがそれに大分遅れてやってきたという形だったので、ディルの疲労の蓄積はほとんどないに等しい。


「慣れって恐いですね。イナリさんがいるのといないのとじゃ、迷宮の攻略速度が段違いです。地図とにらめっこしながら牛歩で進むのが今までの普通だったはずなのに、それに煩わしさすら感じてしまいました」


 何やら精神的な疲労が溜まったらしいウェンディを見て、さもありなんと頷くディルとイナリ。

 おじいちゃんからすれば彼女がいなければ自分にまともな迷宮行は無理なので、ウェンディの気持ちもよくわかるという同意であり、イナリからすると自分がそれだけ有用なのは当然のことという傲然とした自己の肯定であった。


 ウェンディもまだ魔力に余裕はあったため、とりあえず三人で十一階層を見学してみようということになった。

 軽く小休止を取ってから、今度は三人で転移水晶を握る。


「ん? わしの顔に、何かついとる?」


「――いえ、別にそういうわけでは」


 転移をする直前、ディルは自分へ向けられている視線に気付いた。

 ウェンディが自分のことを、じっと見つめていたのだ。


 もしかすると、いきなりパーティーを組むことになって不安が溜まってるのかもしれん。

 なるべく戦闘は避ける方向で行った方が無難じゃろう。


 ディルはようやく中層へ自分達の足が届いたことに嬉しさを覚えつつ、ウェンディが仲間になってくれたことを喜びながら脳裏に浮かんできた合言葉を叫んだ。




「ここからが中層になる、冒険者としてはここまで来れればベテランという扱いだ。上層と中層の違いについても、一応説明をしておこう」


 周囲に敵がいないことをたしかめてから、イナリがディル達の方へ向き直る。

 既に皆中層のことに関しては知識を入れているのはわかっているはずだが、確認の意味も込めて説明をしておこうという腹づもりなのだろう。


「まず中層からは、悪辣な罠が増えてくる。上層は落とし穴と毒の塗られた吹き矢くらいしかまともな罠がなかったが、中層以降はレパートリーが増えてくる。力を入れると壁が裏返ってモン部屋に直行する隠し扉、スイッチを押すと強力な罠が発動するギミック、それから地面に魔力を吸い取られるドレインフロアなんかがその代表だ。だがまぁ、罠は私が全部なんとかできる。解除もできるから、それで探索が止まるということもない。私たちにとって一番問題になってくるのは……」


「魔物が基本的に、団体行動を取るようになってくるところですね」


 イナリは魔法で罠を探知することができる。

 全てを看破できるわけではないらしいが、彼女を先頭に立てて注意深く観察をしてもらえば、罠に関してはひっかかる心配はほとんどないに等しい。


 そのためこのパーティーにとって問題となってくるのはそれ以外、具体的には魔物が集団行動を取るようになることと、魔物の中に魔法を放ってくるものが出てくるようになることの二つである。


 イナリの気配察知は達人の域にあるため、敵の数や距離などはかなり離れたところからでも確認が出来る。

 今までは彼女の力に飽かせて最低限の戦闘だけで階層を抜け、戦うときも可能なら一体で行動している魔物と戦うように心がけてきた。


 だが中層からは、魔物が複数で行動するようになるのだ。

 二種類以上の魔物が出る階層でも、魔物達は喧嘩することなく行動を共にするようになるのである。

 そのため今後は、魔物達もある程度の連携を取ってくるようになる。

 十一階層以降を中層と呼びベテランの狩り場と呼ぶのは、ここから難度が一気に上がるためだ。


 そしてもう一つの特記事項として、十一階層以降は魔法を使う魔物が出てくるようになる。

 例を挙げれば、今ディル達がいる十一階層にいるグリーンスライムは、下級の低威力のものではあるが、風の刃(ウィンド・カッター)と呼ばれる魔法を放ってくるようになる。


 ディルは一応甲殻鎧をつけてはいるが、動きの妨げにならないよう守っているのはあくまでも胸部や脚部、関節等の一部分だけである。

 相手が撃ってくるのは仮にも魔法だ、一度でも攻撃をもらってしまえば戦闘に支障が出るのは免れない。


 ここから先は、一撃をもらうのが命取りになりかねない。

 ウェンディからのフレンドリーファイアの危険も常にあるため、見切りをかなりの高頻度で発動する必要があるだろう。


 ディルは腰のポーチに手を触れる。

 そこには休みの時間を使って買い集めたポーションが器に入って収納されている。


 使うと足が出そうじゃからなるべく使わんまま進みたいが……そうも言ってられなさそうな気がするの。


「まず右手に進むと、グリーンスライムが二体いる。左に進んで、マップを埋めながら転移水晶を探す。帰れる状態になってから戦闘をしていくぞ」


「つまりは、いつも通りってことじゃね」


「不測の事態に陥ったらどうするんです?」


「そうなったら戦うだけだ。老体に鞭打って無理矢理戦わせる」


 魔法を使い罠を探知しながら、先導を始めるイナリ。

 その背中を見て、ディルはその背中を追い始めた。

 はぁ、と大きなため息を一つ吐いてから、ウェンディもまたその後を追っていく。


 迷宮の中層攻略は始まったが、三人の冒険者パーティーとしての足並みは未だ完全に揃ったとは言いがたかった。

次回の更新は1/16になります

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