凶器の正体
その後、用事を済ませ、仲西にあることを頼んだ後、再び堺さんを居酒屋に呼んだ。
「刑事さん、まだ何かあるんですか? もう話すことはないと思いますけど」
「そうですよ、私達、忙しいんです」
堺さんと結城さんが怪訝そうに言った。
「犯人がわかったので、聞いていただこうかと思いまして」
「それって……もしかして、私達のどちらかが、犯人だって言う気ですか!? 外部犯の可能性もあるでしょ!?」
堺さんが吠えた。
「いいえ、お二人のどちらかが、犯人で間違いありません。重要なのは、凶器です。被害者は凶器で一度だけ殴られた後は、素手で殴られたと言っていました。何故、犯人は凶器から素手に変えたのか――それは、殴った瞬間に、凶器が消えた……正確に言うと、壊れたから、です」
「……どういうことですか?」
堺さんも結城さんも、首を傾げた。
「犯行現場の一部の地面には、その痕跡がありました。犯行直後、凶器はまだそこにあったんです」
その時、胸ポケットから僅かに衝撃を感じた。……少し、回りくどかっただろうか。
「端的に言いますと、凶器は氷です。作りが甘かったのか、一度殴っただけで、壊れてしまいましたが、人を殴れる大きさの氷は、そう簡単には用意できませんので、突発的な外部の犯行は、不可能なんです。でも、前日から、被害者がこの近辺に現れることを知っているなら可能です。ましてや、飲食物を扱う人なら、より簡単に凶器を用意できる……結城さん、犯人はあなたです」
犯人――結城さんは、俺の言葉を聞いて目を見開いた。
「な、何で私が!? 飲食物なら、堺さんだって同じじゃ……」
その時、俺の携帯が鳴った。
「ちょっと、すみません。……赤石です」
「仲西です。先輩の言った通りでした。後程メールで送ります。それと、さっきの件ですか――」
「……わかった、ありがとう」
電話を切り、二人に向き直った。
「結城さん、先程、あのパンチパーマの女性に最近会ったのは、いつだと言っていましたか?」
「え? 二週間前です……」
「本当ですか? 今、後輩の刑事が調べてくれました。あの女性は、昨日、堺さんのところへ行った後、あなたのところにも行ったそうですよ?」
「そ、そんなはずは……」
「結城さん、正直に言った方が……」
堺さんが不安そうに言った。
「確かに、あの人は昨日、うちの店に来ました。でも、それが何だって言うんですか?」
「そこで、どんなことを話しましたか? 普通の世間話、では、無いですよね?」
「……大石の事を、話されました。でも、それは堺さんも同じですよね?」
「その様ですが……結城さん、どうして、昨日のことを隠していたんですか?」
「隠していただなんて……単なる記憶違いですよ」
「知られては困ることが、あったのでは無いですか?」
「違うわよ! さっきから聞いていれば、決定的な証拠が無いじゃない! 私を犯人だって言うなら、証拠を出しなさい!」
証拠。あるには、ある。でも、それは俺の出方次第で、証拠では無くなってしまうかもしれない。
再び携帯が鳴った。仲西から画像が添付されたメールが来ていた。
確認し、俺はその画像を結城さんに突きつけた。
「これは、犯行現場に近いところにある、防犯カメラの映像の一部です。ここに、あなたの姿が写っています」
画像の端に、犯行現場から逃げ去る犯人の後ろ姿が写っていた。
「何ですかこれ……こんな黒いマスクとサングラスじゃ、私だってわからないじゃないですか!」
「……俺は一言も、マスクとサングラスなんて、言っていませんが」
そう言うと、結城さんはしまった、と、口を押さえた。写真には犯人の後ろ姿しか写ってなく、顔まではわからない。
「堺さん、この写真から、マスクとサングラスは見えますか?」
「……いえ、この写真からは、見えません」
写真を見せると、堺さんは震える声で答えた。
「結城さん、警察が公表していない情報を、どうしてあなたが知っているんですか?」
俺の言葉に、結城さんは俯いて、小さく答えた。
「……私が、やったからよ」