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刑事の俺と小人の君  作者: 颪金
小人編
42/43

危機

「それじゃ、また後で」

「ああ、気を付けて」

ロッカールームで省吾と別れた後、すぐに根岸さんの机に向かった。他の社員はみんな、省吾の話を聞いているので、一人で行かないと……。

数分走って何とか気付かれずに机にたどり着いた。

「ふう……」

省吾と一緒に捜査をしているから、動くことも減って、体力が落ちた気がする……前はこんなに、息が上がらなかったはずなんだけどなあ。

キャスターをつたって引き出しに潜り込もうと近付いた瞬間、根岸さんが足を動かした。

「うわっ」

私のすぐ真横に足が下ろされ、思わず悲鳴を上げてしまった。これ、後少しズレてたら踏まれてたかも……。

引き出しに潜り込み、暗い中を手探りで進み……鍵のようなものが二つ、引き出しの上部に貼られているのを見つけた。片方には、よーく目を凝らして見ると、『治田』と書いてある。

私サイズに小さくして、引き出しから脱出して、省吾の話に合わせて元の大きさに戻した。

音を聞きつけて省吾が近付いてきたタイミングで、私も飛び出して合流……リスクがあったけど、省吾が盾になったのか、他の人には見られなかった――。


「りま、お疲れ様」

事件の報告を終え、照井刑事と別れた後、省吾が私に声をかけた。

「うん……疲れちゃった」

「そうだな、もう帰るか」

省吾も一日中動きっぱなしで疲れたみたい。ふう、と小さくため息をついた。

「それと……帰ったら話がある」

「え?」

な、何だろう、話って。


家に帰って風呂と夕食を簡単に済ませて、食器を片付けたところで、省吾が切り出した。

「りま、今日の捜査の件なんだが」

「う、うん」

何か不備でもあったかな……誤認逮捕させたとかではないと思うけど。

「はっきり聞くが、俺が何を言いたいか、わかってないだろう」

「え……」

あ、これ、覚えがある。小さい頃にいたずらをして母さんに怒られる直前の雰囲気だ。

「この前の、喫茶店の事件で、君は俺から離れて一人で捜査をした。俺に会う前はそうしていたから、以前の状態に戻っただけだと、あの時は納得していた。でも、今日は違う……君、今日の捜査で、何度か危険な目に遭ったんじゃないか? いや、それだけじゃない……喫茶店の事件の時も、以前の森林公園の事件の時だって、潜入捜査で危ない目に遭っていたはずだ。正直、俺はもう君に単独捜査はさせたくないと思っている」

「……まず、どうして、この前と今日で感じ方が変わったのか、教えてくれる?」

この前は一人での捜査に納得してくれたのに、どうして今日は違ったのか……。

「鍵と君を回収する時、一瞬表情が見えたんだが……顔が真っ青だった。あれは相当な恐怖を感じないとできない顔だ」

「……」

正直、図星だった。確かに、あの時は怖かった……。

「言いたいことはわかったよ。でも、どうしようも無い時ってあるよね? 別行動をしないといけない時とか、照井刑事や他の警官にバレそうになった時とか」

「それはそうだが、心配なんだ。君は大丈夫だと言ったが、何かあってからじゃ遅いだろう?」

「そうだけど……」

省吾は心配してくれてる。その気持はわかる。でも、私は私で、省吾達の役に立ちたい。

「……考えさせてもらってもいい? 明日中には結論を出すから」

「わかった」

話を終えて、今日はもう寝ることにした。


翌日、朝になっても結論が出なかったので、とりあえず署に向かった。

車を駐車場に止めて、降りたところで、照井刑事に声をかけられた。

「おはようございます、赤石さん」

今は捜査中じゃないから、刑事とは呼ばないらしい。

「おはよう、照井。どうした?」

「ちょっと話がありまして……いいですか?」

車を指差して言った。大事な話らしい。

「で、話ってなんだ?」

助手席に乗り込んだ照井刑事が、話を切り出した。

「昨日の事件では、私の早とちりで、誤認逮捕するところで……改めて、ありがとうございます。それと、すみません、赤石さんのこと、少しだけ調べさせてもらいました」

「俺のこと……」

気まずそうに言った。

「色々と気になることはありましたけど……ここ最近、赤石さんは随分推理が冴えてるみたいですね。以前と捜査の仕方が変わったという声もあるとか」

「そう、かもしれないな。俺も色々思うところがあって、やり方を変えたんだ」

「そうですかね。他の警官に聞いたんですけど、仲西刑事から離れて、一人で行動することも増えたとか……そうそう、影で誰かと電話でもしているのか、一人で話をしているところを見たという声もありましたね」

「……」

黙ってしまった省吾を尻目に、話を続けた。

「赤石さん、捜査情報を他に漏らしているんじゃないですか? やり方を変えたとはいえ、いきなり推理が冴えるなんて、あり得ない気がします。誰かの助力を得ているとしか思えないです」

捜査情報を漏らすなんて、立派な違反だということは、私でもわかる。

どうしよう、他の警官に、私と話しているところを見られているみたいだし、言い逃れは厳しいかな……。

昨日の省吾とした話もあるし、そもそも、二人だけで捜査なんて、元から無理な話だったんだ。私の我儘で、省吾の立場まで危うくなってる……そろそろ、限界かもしれない。

「照井、俺は――」

省吾が何か言おうとしていたが、咄嗟に叩いて止めた。それがどういう意味か、彼もわかったらしい。

「俺は、何です?」

「……どうしても、言わなきゃだめか?」

「そうですね」

「言った場合、黙ってもらうことは?」

「難しいですね、課長にも報告しないといけないですし」

「……」

照井刑事は、やっぱり鋭かった。

「わかった、全て話す」

車外に人がいないことを確認して、私を胸ポケットから出した。

そして、ゆっくりと、照井刑事の前に私を差し出した。初めて顔をちゃんと見たけど、ちょっと童顔っぽい、可愛いらしい顔をしていた。

「は、初めまして……」

恐る恐る挨拶すると、照井刑事は目を丸くして、口をぽかんと開けて私を見ていた。

そして。

「え、えええ!?」

助手席側の扉が開いていたら、そのままひっくり返って落ちてたんじゃないかと思うくらい、びっくりしていた。

「こ、これはいったい……どうして、え?」

見たことのない狼狽え方をしている。今、さり気なくこれ呼びされたな……。

「俺が、ここ最近世話になっている、二宮りまさんだ。俺達よりもずっと聡明で、頼りになるぞ」

省吾がそんなことを言いだした。……って、そ、聡明!? そこまでじゃ……いくらなんでも買いかぶりすぎ!

「聡明、ですか……小人なのに?」

小人なのに。照井刑事がそう言った瞬間、空気が凍りついた。

「それはどういう意味だ? りまは身体は小さいかもしれないが、その頭脳は本物だ。君は見た目で人を判断するのか?」

「え、いや、でも」

「でも、何だ? 見た目で人を判断するのか、と訊いてるんだ」

「う……」

省吾が、明らかに怒ってる。これはまずい。照井刑事が怯えている。

「待って、私なら大丈夫だから……」

私からそう言って、何とか収めてもらった。

「そうだ、省吾、照井刑事と話をさせてくれない? 二人だけで」

「二人だけで?」

ちらっと照井刑事を見た。

「うん……十分くらいでいいから」

「……わかった、十分だけ、な。」

そう言うと、手を差し出した。

「照井、手」

「え……は、はい」

照井刑事も両手を出した。

省吾の手から、微妙に震えている照井刑事の手に飛び移る。そして、省吾が車から降りた。

「照井、くれぐれも……頼むぞ」

念を押して、扉を閉めた。

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