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刑事の俺と小人の君  作者: 颪金
刑事編 第五「代理の刑事」
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潜入捜査

根岸さんを他の警官に任せ、連行してもらった。

「パワハラ社長に、その社長夫人と不倫関係の社員、更に、社長を陶酔するあまり、殺人まで犯した社員……あの会社、再起は難しいだろうな」

パトカーを見送りながら、呟いた。

「そうですね……そういえば、パワハラの音声データの入ったボイスレコーダーですけど、どうやって手に入れたんですか?」

「それは……拾ったんだ」

「どこで?」

「治田さんの車の中で、だ」

「鑑識からは、そんな報告ありませんでしたが……」

照井は首を傾げているが、本当は違う。


りまに言われて、向後さんと社長夫人の不倫を暴いた後、りまに会社に戻るように言われた。

「照井刑事は、治田さんや向後さんの机は調べてたけど、ロッカーは調べてなかったよね……もしかしたら、何か理由があるのかも。犯人が、治田さんから鍵を奪ったとか、マスターキーが無かったとか」

「ロッカーに、何かあるのか?」

「ドライブレコーダーだよ。もし犯人が社長さんなら、家も近いし、すぐに破棄したり、隠蔽することはできるけど、もし根岸さんが犯人なら、どこかに隠し持ってるかも。ほら、機械に弱いって、向後さんも言ってたし……出社してから一度も会社から出てないみたいだし、あるとしたら、今言った治田さんのロッカーかな……わざわざ自分のロッカーや車に、証拠の品をしまうことはないと思うし。だから、治田さんのロッカーを調べさせてほしいんだ」

「なるほど、また潜入捜査か」

「うん、ロッカーなら、私が入れる隙間も、どこかにはあると思うから……」


というわけで、会社に戻った後、すぐにオフィスには行かず、ロッカールームへ向かった。

思った通り、治田さんのロッカーの背面に、りまなら出入りできそうな空気穴があった。

「気をつけるんだぞ」

「うん、何かあったら知らせるね」

りまが中に入って数分後、何かを握りしめて、空気穴から出てきた。

「見つけたよ、決定的な証拠! 暗くてよくは見えなかったけど、中に壊れた機械みたいな物があって……レンズとかがついてたから、ドライブレコーダーかも。私の指紋がつくかもしれないから、持ってくることはできなかったけど」

「じゃあ、この中に、犯行の瞬間を映したデータがあるかもしれないんだな」

「うん、だから、ちゃんと開けてもらって、取り出した方がいいと思う……あ、でも、これは持ってきたよ」

そう言って差し出したのは、りまの掌に乗った小さな何か……俺にはよく見えない。

「あ、ちょっと待って、戻すから」

手をかざすと、一瞬で俺の掌のサイズに膨らんだ。

「これは……ボイスレコーダーか」

USBタイプのボイスレコーダー。再生すると……先程聞いたような、白本社長のパワハラの様子が記録されていた。

「これは推測だけど……」

胸ポケットに戻るなり、りまが言った。

「治田さんがあの時間に会社にいた理由は、パワハラの証拠を掴むためだと思う。犯人に呼び出されたか、それとも張り込みでもしてたのかは、わからないけど……それで、犯人が治田さんを殺害して、ドライブレコーダーを治田さんのロッカーにしまったんだよ」

「そういうことか……だが、ロッカーの中にドライブレコーダーがあったのはわかったが、それを根岸さんがしまったという証拠はないぞ。治田さんのロッカーの鍵を、根岸さんが持っているところでも見つけないとな……」

「持っているところ、ね。それって、根岸さんの持ち物から、ロッカーの鍵が出てくればいいってことでしょ? だったら、次は根岸さんのロッカーを調べさせてよ。鍵があるかも――」

というわけで、次は根岸さんのロッカーを調べてもらったが、何も収穫はなかった。

「ということは……省吾、後でみんなの前で、向後さんの不倫の件と、根岸さんの殺人の件を話すと思うから、その間に私が、根岸さんの机を調べるよ。多分、引き出しの何処かに、鍵を隠してると思う」

「どうして、引き出しにあると思うんだ? 照井が、持ち物は全て調べたと言っていたはず……」

「それって、引き出しの中とかでしょ? 鍵って私くらいの大きさで、小さいから、どこかに貼り付けたりして隠すこともできると思う。ロッカーの中には怪しいものは無かったから、多分、あるなら机だよ。重要な証拠の品ほど、自分の近くにあれば安心できるし」

「そういうことか……って、ちょっと待ってくれ、まさか、また二手に別れて行動するのか?」

「え、そうだけど」

何か? とでも言いたそうに、首を傾げている。

「……」

思わず黙ってしまったが、それをどう捉えたのか、りまは自信たっぷりに言った。

「大丈夫だよ、この前だって、何とかなったんだから」

「……わかった」

あまり引き止めるのは、りまを信用していないと思われそうだ。心配は心配だが……仕方ない。


その後、俺は照井を含めたみんなの前で先程の推理を披露した。その時、ちょうどいいタイミングで、鍵が根岸さんの机から落ちた。恐らく、りまが落としたのだろう。それを拾うタイミングで、りまが視界に入ったため、鍵ごと回収した。根岸さんにはバレていなかった……と思う。

結局、今回も、りまに頼って事件を解決した。

「照井、そういえば、向後さんの車を映した防犯カメラの映像……映像を借りればよかったのに、何故画像だけ持ってきていたんだ?」

「ああ、それは……あれだけでも十分かな、と思いまして」

「ロッカーも、そこまで調べなくてもいいと言っていたな。……それだけで、向後さんを犯人と?」

「あれは、引き出しに凶器があったからで……」

「とはいえ、いくらなんでも調べなさすぎだ。刑事としてどうなんだ……手錠をかけた経験があるんだろう?」

「あ、それは、先輩が逮捕した犯人に、私が手錠を……」

「つまり、君が逮捕したわけではないんだな」

まあ、確かに、手錠をかけたことはある、と言っていただけで、逮捕したことがあるとは言っていない。

「今回、君は早とちりをした。誤認逮捕目前だった。それについてはどう思う?」

「申し訳なかったと思います。張り切りすぎた、と言いますか……」

俯いてそう呟く様子を見て、反省は十分にしていると判断した。

「わかってくれたならいい。俺も初めはそうだった……今後、気をつけよう。……俺達も戻ろうか」

「はい」

照井を助手席に乗せ、俺は運転席に座った。

「そういえば、課長が話していたんですが、赤石刑事は、仲西刑事に運転をさせていたそうですね」

シートベルトを締めながら言った。

「させていた、というのは違う。仲西が俺に運転させたくないと言って、運転席を譲ってくれないんだ。以前、仲西を助手席に乗せて運転してたら、信号無視の車がいて、止まるように言っても止まらなかったから、ドリフトかけて前に回り込んで停車しただけなんだが……ん?」

俺も締めようとしたシートベルトのバックルを、何故か照井が掴んでいた。

「……私も」

「どうした?」

「私も、赤石刑事には運転させたくないです。今すぐ降りて替わってください」

「え……」

俺の返事を待つ前に、照井が車を降りて運転席の扉を開けた。

「どうしても、か?」

「どうしても、です」

そう言う照井の目は、俺に運転させまいと誓った仲西と同じ目をしていた。

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