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刑事の俺と小人の君  作者: 颪金
刑事編 第四「母の想い」
33/43

それは誰?

萱野家で見たこと、母親から聞いた内容などを、電話で課長に報告した。

「そんなことが……こちらも、現場検証、進んでるわ。犯人は、合計で十発、弾を撃っていて、そのうちの五発が命中している。文字通り、乱射したみたいね……それと、近所のコンビニの防犯カメラに、事件が起きた八時頃に、高校生が一人、歩いているのが映ってる。今画像を送るから、確認してちょうだい」

送られてきた画像に写っていたのは、上下ジャージを身にまとい、マスクをした少年……生徒手帳の写真で見た、萱野伸一さん本人と思われる。

「伸一さんだと思われます」

「わかった。まずその萱野伸一君を、重要参考人として、居場所を突き止めるとしましょうか。そっちは引き続き、聞き込みお願いね」

「了解です」

というわけで、仲西と手分けして、萱野家の近所の住人から、話を聞いていくことにした。

「萱野さん? とーっても人当たりがいいわよ。息子の伸一君も、よく挨拶してくれて……この前なんて、あそこの奥さんと、道端で一時間も話し込んじゃったわ」

そう語るのは、萱野家の、向かって右隣に住む女性。主婦で、萱野さんとはよく話をするらしい。

「ああ、あそこの人? この前挨拶したら睨まれたよ、一緒にいる、息子かな? 凄く申し訳無さそうにしててね……あんまり関わりはないなぁ」

そう語るのは、萱野家の向かいに住む男性。在宅で仕事をしているらしく、新聞を取り込んだりする際に、萱野さんと顔を合わせることがあるらしいが、特に母親に対して、あまり良い印象を持っていないらしい。

「先輩、萱野家の左隣、空き家でした。その隣の家の方によりますと、随分前に、萱野さんとトラブルになって、引っ越したそうで」

「どんなトラブルだ?」

「その家の子が、ピアノを弾いていたらしくて、その騒音トラブル、とのことですけど、近所の人いわく、騒音対策はしていて、多少音漏れはあったが、自分は気にならなかった、と」

近所の人が気にならないレベルの騒音を、萱野家は気にしていた。それでトラブルか……。

「こっちも話を聞いてみたが、人によって評価がバラバラだ。良い人の時もあれば、関わりたくない人の時もあったらしい」

「随分はっきりと別れてるんですね……」

その時、仲西の携帯が鳴った。

「課長からです。……はい、仲西です。……わかりました」

短く話をして通話を終えた。

「先輩、被害者の黒木さんの治療が終わったそうで、至急、話を聞きに行ってほしいそうです」

「わかった」


というわけで、被害者である矢内さんの父親と、黒木さんの二人が運ばれた病院へ向かった。

矢内さんはまだ意識が戻らず、手当ての終わった黒木さんは大事を取って入院することになっていた。

「お話を聞かせてもらってもよろしいでしょうか」

「はい……」

黒木さんの傍らには、連絡を聞いて両親が駆けつけていた。心配そうに娘を見つめている。

「まず、事件が起きた時の様子を、教えていただけますか?」

「えっと……私と矢内と竹原は、幼馴染で……矢内の家に遊びに行って、そのまま泊まっていったんです。で、朝になって、朝ごはんをご馳走になろうと思っていた時に、萱野が入ってきたんです」

内容は、竹原さんが話していた内容とだいたい一致していた。

「そして、いきなり、銃……みたいなものを撃って、それが矢内のお父さんに当たったんです。私は庭へ逃げて、その時に、脚を……それから、矢内を撃って、玄関に行った後にまた銃声が聞こえて……」

「そうでしたか。もう少し聞かせてください、その時の萱野さんは、どんな様子でしたか?」

「無言で、挨拶もなく、いきなりでした。……そうだ、今日って土曜日ですよね? でも、うちの高校のジャージを着ていたんです。マスクもしてて」

「ジャージに、マスク……」

仲西が呟きながらメモを取った。

「ちなみに、ですが、鍵はどうしていたのでしょう?」

「あ、矢内のお父さん、朝新聞を取った後、すぐ出かけるので、いつも、新聞を取った時は、鍵を開けたままにするんです」

「そういうことでしたか」

不用心な習慣を、利用されてしまったということだ。

「ところで……萱野さん、学校内でトラブルなどはありませんでしたか? 例えば、いじめとか」

メモを取っていた仲西が口を開いた。

「いじめですか? 聞いたことないです」

不思議そうに首を傾げた。

「……そうですか」

何か言いたげだったが、相手は怪我人だ、さすがに控えたらしい。

「現在、萱野伸一さんの行方を追っています。どこか、行きそうな場所に心当たりはありませんか?」

「心当たり……あ、お父さんのところかも」

「それは、萱野さんの父親ですか?」

「はい、萱野は少し前に、親が別居したって――」


黒木さんは萱野伸一の父親の居場所まではわからなかったため、話を終え、退室した。

「仲西、どう思う?」

車に戻り、書いたメモを見直している仲西に聞いた。

「僕としては、萱野さんが学校でいじめを受けてて、その復讐かな、と思ってます」

ノートに書かれた、筆跡の違う落書き……はっきりとした殺意もあるらしいし、そう考えても不思議じゃない。

その時、胸ポケットから衝撃を感じた。

「仲西。……ちょっと離れるぞ」

その言葉で、察してくれた。

「あ、はい。僕は、黒木さんからの証言を、課長に電話で報告してます」

車から離れ、駐車場の隅に行ってから、胸ポケットを覗いた。

「どうした?」

「気になることがあって……」

こほんと咳払いをした。

「どうして、萱野さん、マスクにジャージ姿だったんだろう、と思って」

「うーん、恐らくだが、硝煙反応が出るから、すぐ着替えられるように、じゃないか?」

「だとしても、ジャージだよ? 普通の服じゃないんだよ?」

「それは、確かにそうだな……」

何故ジャージで犯行に及んだのか、それがわからない。

「……ねえ、萱野さんが通う高校のジャージって、どんなデザイン?」

「デザイン? ちょっと待ってくれ」

スマホで高校のサイトを調べると、すぐに出てきた。夏場行われた学校行事の写真が載っている。紺を基調とした、シンプルなデザインのジャージだ。

「……」

写真を見つめ、りまは何かに納得するように、数回頷いた。

「ねえ、省吾は、普段捜査する時は、どんな服を着てる?」

そして、急にそんなことを訊いてきた。

「普段は、スーツを着ているが……」

「仲西刑事も?」

「そうだな」

「じゃあ、例えば、仲西刑事と背格好が似ている人間が、仲西刑事と同じスーツを着て、町中を歩いているのを見かけたら、咄嗟に見分けられる?」

「状況にもよるが、見分けられないかもしれないな……それがどうかしたのか?」

「服装って、人物を覚える上では、結構重要なんだよ。普段特徴的な服を着ている人が、全く違うタイプの服を着て現れた時、違和感が凄い時があるでしょ? 逆に、背格好の似た全くの別人が、その特徴的な服を完全コピーした時、顔ははっきり見えていなくても、その人だと勘違いするってこと、あるよね? 黒木さんの証言では、犯人は萱野さんのジャージを着ていた。突然現れて、銃撃されたことを踏まえると、はっきり萱野さんだと認識することは、できなかったんじゃないかな」

「襲撃したのは萱野伸一さんじゃないと言いたいのか? でも、あの高校のジャージなら、萱野さん以外にも着ている人間は大勢いるだろう、ジャージが、それイコール萱野さんとはならないと思うが」

「サイトの写真をよく見てよ、ジャージの胸元、小さくモザイクがかかってるでしょ? これってつまり、今時珍しいけど、ジャージは胸元に名前が書いてあるデザインってことだよ。突然現れた人間が、胸元に『萱野』と書かれたジャージを着ていたなら、その人を萱野伸一さんと間違えてしまうって、あり得ないことじゃないよね? 萱野って苗字、珍しいし」

サイトの写真を確認すると、確かに、胸元にモザイクがかかっている。

「……だが、あの現場にいた竹原さんと黒木さんは、はっきり萱野さんだと言っている。服装だけじゃなく、顔も見ているはずだ」

「そこで、マスクだよ。顔を見て判断されないように、マスクをして犯行に及んだ。犯人は、襲撃犯を萱野伸一さんだと思い込ませたかったんだ。でも、顔を完全に隠すことはしなかった。特に目元、隠しちゃうと視界不良で銃の命中率が下がる可能性がある。だから、目元は隠さなかった。それでも違和感無く、萱野伸一さんになることができた人間、一人いるよね」

「まさか……母親か?」

生徒手帳で見た伸一さんの目元は、母親そっくりだった。

「そう。伸一さん本人なら、わざわざジャージを着る必要はない。伸一さんのジャージを着て、罪を着せることができるのは、母親だけだよ」

「でも、どうして、母親がそんなことを」

「そこまではわからない……伸一さんがいない理由も。とにかく、母親が戻ってきたら、事情を聞いてみた方がいいかもしれない」

「わかった、少し待つか」

車に戻ると、仲西が険しい顔でメモを見つめていた。

「仲西。……どうした?」

「あっ、いえ……ちょっと考え事を」

「そうか、実はな――」

りまから聞いた内容を話し、一度萱野家へ戻って、母親の帰りを待つことにした。

……だが、二時間待っても、母親は戻ってこなかった。

「これ、まずいかもしれないな……」

「散歩にしては、長すぎますね」

その時、俺のスマホのバイブが鳴った。

「はい、赤石です」

「私よ、相変わらず相手を確認しないのね……萱野伸一君の父親の住所がわかったわよ、息子さんの居場所、知ってるかも」

電話の相手は課長だった。

「ありがとうございます、実は……」

りまから聞いた内容を、俺の推理ということにして、課長にも報告した。母親が戻らないことも、一緒に話した。

「す、凄いわね、そこまで考えてたの?」

「ええ、まあ……」

多少怪しまれたが、なんとか誤魔化せた。

「母親の行方ね……それはこっちに任せて、そっちは父親の方に向かってくれる?」

「わかりました」

課長から住所を聞き、急いで車で向かった。

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