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刑事の俺と小人の君  作者: 颪金
刑事編 第四「母の想い」
32/43

おかしな母親

到着したのは、矢内家から徒歩で二十分くらいの場所にある、ごく普通のアパートの一室。

インターホンを鳴らすと、三十代くらいの女性が出てきた。

「どちら様ですか?」

「警察です、朝早くに失礼します」

手帳を見せると、女性は首を傾げた。

「警察がどうして……もしかして、息子が何か?」

「いえ……どうして、息子さんのことだと?」

「実は、今朝から姿が見えなくて、どこかに出かけたのかと。そうじゃないなら、どうしてうちに?」

「この近辺で、事件が起きまして、そこの住人が、萱野さんのことを話していたんです」

「あ、ニュースで見ました、銃の乱射事件だって」

「それです。何かご存知ありませんか? それか、この近辺に、他に萱野さんはお住まいでしょうか?」

「私は何も……息子なら、何か知ってるかも。でも、今いないので……入りますか? 私も、普段は入らないんですけど」

「え? あ、ありがとうございます……」

お言葉に甘え、部屋に入れさせてもらった。

部屋は、ごく普通の高校生の部屋だった。片付いているが、机には教科書やノートが積まれている。

「どうぞ、ゆっくり見てってください」

そう言うと、母親はその場を去ってしまった。


「……仲西、どう思う?」

こっそり耳打ちした。

「なんというか……のんびりした方ですね」

仲西も、大分言葉を選んだようだ。

息子がいないというのに、あまり慌てていなかったり、警察とはいえ、見ず知らずの人間を息子の部屋に通して自分は離れたり……警戒心が全くない。

「とにかく、調べてみましょうか……見たところ、普通の高校生の部屋ですけど――」

仲西が机の上の教科書を手に取ると、下から、くしゃくしゃに丸めた紙が出てきた。

「これは……」

開いてみて、言葉を失った。

恐らく、元は数学のノートの一ページだったのだろう。それに、違う筆跡で、下ネタの混じった下品な落書きが大量に描かれていた。

近くにあった、表紙に数学と書かれたノートを手に取ると、一部のページが破れている。あの丸まったページと破れた跡を合わせてみると、一致した。その前後のページにも、落書きがされており、消しゴムで消そうと努力した跡もあった。

「酷いですね」

仲西が中を覗いて言った。

「そうだな……もう少し調べるか」

同じような被害を受けていたのは、数学の他、化学と英語。現代文のノートは、液体がかけられていた。匂いからして、ジュースと思われる。

「仲西」

「大丈夫です、冷静ですから」

「そうか、それなら、この持ち主――伸一さんの母親から、話を聞いてきてくれ」

机の上には顔写真付きの生徒手帳があり、ノートの表紙にある名前と同じ名前、萱野伸一と記されていた。写真には、母親によく似た男子高校生が写っている。

「わかりました」

ノートを数冊抱え、部屋を出ていった。


「大変な事件だね……」

りまがポケットから顔を覗かせた。

「そうだな……今回の事件、この伸一さんが、何か関係ありそうなんだが」

肝心の本人から話を聞きたいが、姿が見えないのが気がかりだ。

「そもそも、銃乱射って、日本でそんなことあり得るの?」

「過去に例はあるが……高校生では珍しいかもな」

「高校生で銃の所持って、どうやって……モデルガンを改造したとか?」

「今のモデルガンは、改造しても弾は撃てないはずだ。改造できたとしても、発射した際に銃自体が壊れてしまって、次が撃てないはず……」

「じゃあ、猟銃とか?」

「猟銃を所持するためには狩猟免許が必要で、それを取得できるのは、最低でも十八歳からだが、実弾を撃てるようになるのは、確か二十歳からだったはずだ」

「それは、法律や決まりを守った場合の話でしょ? そうじゃないとすれば……」

「だとしても、少年一人で、銃の取得まで行えるとは思えない。……協力者が、いるかもな」

その瞬間、仲西が戻ってきた。

「先輩、話を聞いてきたんですが……」

「あ、ああ……どうだった?」

「それが――」


仲西が、伸一さんの母親に、ノートを見せた上で、学校内でトラブルはなかったかなどを聞くと、母親はそれを否定したという。それどころか、「落書きですか? 勉強の息抜きに、友達と書いたんじゃないですか? こういう下品なワード、子供は好きでしょ?」と笑いながら言ったらしい。


「いじめってワード、出してみたか?」

「出しましたよ、でも、そんなことはないって」

「なんだそりゃ……」

それでも母親か、と言いたくなったが、仲西の表情が暗い事に気付いた。

「どうした?」

「あの母親、息子へのいじめやトラブルを、認めたくないのかな、と思って」

「認めたくないにしても、現にこうして被害を受けているのなら、認めて守るのが親というものだと思うが」

「ですよね」

「俺も話を聞こう。母親はリビングか?」

「いえ、出かけました」

「え?」

で、出かけた?

「散歩に行くから、あとは自由にしてくれ、と。鍵はそのままにしてほしいって」

「……」

言葉を失ってしまった。

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