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刑事の俺と小人の君  作者: 颪金
刑事編 第四「母の想い」
31/43

銃声

それから数日後――季節がもうすぐ変わろうとしていた。

「りま、おはよう」

朝起きてすぐに、ドールハウスのりまに声をかけた。

「おはよう」

起きたりまは、例のワンピースを着ていたが、その上から腕を擦っていた。

「そうだ」

棚から、あるものを取り出した。

「これ、作ったんだ」

フェルト生地で作った、新しい服だった。丈を長くして、コートのようにも見える。

「もう少し微調整したかったが……寒くなってきたからな」

「あ……ありがとう」

赤い、長袖のデザイン……薄めのフェルト生地だが、りまにとってはセーターくらいの厚さにはなるはずだ。

「……うん、暖かい」

早速、袖を通してくれた。よかった、気に入ってくれたようだ。

電源を入れたポータブルテレビでは、天気予報が流れていた。これから、気温が更に下がるらしい。ヒーター、どこにしまったかな……。


「りま、そろそろ行こうか」

食事と身支度を終え、出勤する。りまをスムーズに、胸ポケットまで誘導した。この生活にも、大分慣れてきた。

「寒くないか?」

「平気だよ、省吾が暖かいから」

そう言いながら、俺の胸に身体を寄せた。

「……そうか」

ま、それならいいか。


署に到着し、仲西や課長と適当に挨拶する。これも、いつもの光景だ。

仲西は結局、りまのことを誰にも伝えなかった。俺と繋がりがあると知っていても、それを咎めもせず、深掘りもしなかった。

ありがたいが……やっぱり、罪悪感がある。とはいえ、これはりまのため……仕方ないことだ。

書類を整理していると、電話が鳴った。一気に緊張感が走る。

「はい、捜査一課……住宅街で、銃声ですか? それと、悲鳴……」

電話を取った仲西が声を上げた。

「ただごとじゃなさそうね、私も行くわ」

課長も立ち上がり、コートを羽織った。


現場は、東沢町のとある住宅街。通報したという主婦に話を聞いた警官によると、午前八時頃、ベランダで洗濯物を干していた時に、銃声のような音が数発、そして悲鳴のようなものも、聞こえたという。

「あの家から、とのことでした」

警官が指したのは、どこにでもある、とある一軒家。

「近所の住人によれば、平日の昼間や夜でも、高校生くらいの少年や少女が出入りしているのを見る、騒音で近所トラブルも何度かあった、と」

「なるほど、とりあえず、その家を調べてみましょうか」

課長の指示のもと、件の家に行ってみた。

インターホンを鳴らすが、返事がない。

試しにドアノブを掴むと、簡単に扉が開いた。

開いてすぐの玄関の三和土に、頭から血を流す四十代くらいの女性が倒れていた。

女性の身体を確認した課長が、小さく首を振った。

「原因は間違いなく、これね」

課長が指したのは、後頭部に刻まれた銃創。

「応援を呼ぶわ」

「俺達は、もう少し中を調べます」

「気をつけてね」

課長の言葉に頷き、仲西を連れて家の奥へ向かった。

リビングではテレビがついており、テーブルの上には朝食が並べられている。そのすぐ脇に、スーツを着た、四十代くらいの男性が一人、背中から血を流して俯せに倒れていた。よく見ると、まだ息がある。

「先輩!」

「ああ、救急車を呼んでくれ」

手早く救急車を呼ぶ仲西の近く、キッチンの脇にも、若い男性が倒れていた。

「……こっちは、だめか」

胸に二発。既に息はなかった。

その時、視界の隅で、何かが動いた。

見ると、庭へ続く窓が開いていた。あまり手入れがされていないそこに、若い女性が、腹這いのままこちらを見ていた。

「大丈夫ですか? 警察です」

「け、警察? 助けて、脚が……」

絞り出した声。太腿から血が流れている。銃創もあった。

「今、救急車を呼んでます」

近くのタオルを使って応急的に止血をした。

「何があったか、言えますか?」

「萱野が、いきなり、入ってきて」

「萱野、とは?」

「近所に住んでる、友達……」

「あなたの他に、人は?」

「二階に、もう一人」

「二階……」

女性を仲西に任せ、玄関近くの階段を上がると、すぐ先に、丸めた新聞紙を握りしめて震えている若い男性がいた。

「落ち着いてください、警察です」

「け、警察……」

手帳を見せると、安心したのか、その場に膝をついた。


まだ息があった男性と、怪我をしていた女性は、救急車で搬送されていった。最後に見つけた男性は、無傷だった。

救急車を見届けてから、話を聞くことにした。

「俺は、竹原と言います、高校二年生です。この家の……矢内の友達です」

「竹原さん、矢内さんの家には、どういった用事で?」

「友達の黒木と一緒に、泊まりに来てたんです。朝飯も貰おうと思ってたら、急に萱野が来て、銃みたいなもので矢内のおじさんを撃って……俺は、怖くなって、二階に逃げて……」

パトカーの後部座席に座って話す竹原さんの手は震えていた。

話を整理すると、玄関の三和土に倒れていた遺体は、矢内さんの母親で、リビングに倒れていた男性は、矢内さんの父親、キッチンの遺体は息子である矢内さん本人。更に、庭にいた女性は友人の黒木さん、ということらしい。竹原さんは、初めに萱野という人物が矢内さんの父親を撃ったところは見たが、その後は逃げ出し、どうなったか見ていないという。


「その、萱野という人物は、どんな方でしょうか?」

「近所に住んでる、俺の同級生で、友達です……」

「そうでしたか……」

まず、その萱野という人物を当たってみよう。

矢内家を離れ、萱野家へ向かう前に、りまの意見を聞きたくなった。

人気のない路地まで移動し、胸ポケットを覗くと、りまはポケットの中で蹲っていた。

「りま、どうした?」

「ちょっと、具合が……」

よく見ると、顔が青ざめている。

「酔ったか?」

ゆっくり動いていたつもりだったのだが……。

「違うの、その……血の臭いで」

「あっ」

俺は、数多くの現場で、血の臭いには慣れているが、りまはそうじゃない。この事件は、負傷者が多い。現場も大分、血生臭かった。

「すまない、配慮が足りなかった」

「ううん、省吾は、ほら、仕事だから」

そう言われても、このまま捜査はできない。

「りま、外に出てくれ」

掌にりまを乗せ、外の空気を吸わせた。

「……ありがとう、もう大丈夫」

顔色も大分良くなってきた。

「もう平気か?」

「うん」

胸ポケットに戻ってもらい、仲西に声をかけ、萱野家へ向かった。

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