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刑事の俺と小人の君  作者: 颪金
刑事編 第一「消えた凶器」
3/43

邂逅

俺の姿を見て、彼女は酷く驚き、そして、かなり怯えていた。

まるで、絶対にばれていないと思って数日間潜伏していたのに、突如警察が現れてしまった時の犯人のような顔をしていた。

怯えさせてしまっては元も子もない。ひとまず、手に持っていたプラスチックの箱を、そっと足元に置いた。

そして、なるべく埃を立てない様に、ゆっくりとその場に膝をついた。

「驚かせてしまって申し訳ありません。別に驚かせたくて箱を持ち上げたんじゃなくて、何となく、箱を持ち上げたんです」

そう言うと、僅かだが相手の表情が和らいだ。

「い、いえ、大丈夫です……」

まだ若干声が震えているが、単刀直入に訊いてしまおう。

「あなたなんですよね? 仲西……俺じゃない、もう一人の若い刑事に電話を掛けていたのは」

彼女は頷いた。

「一体どうして……電話なんて使わず、面と向かって言ってくだされば、もっと早く犯人を逮捕できたかもしれないのに」

「だ、だって、こんな姿で会えるわけないじゃないですか……」

そういうものなのか? ……あ、そうだ。

「さっき話していた、水の痕の件……どうして、わからなかったんですか?」

仲西の話では、彼女の話す推理はいつも的中だった。なのに何故、今に限って外れたのだろう。

「仲西刑事の話しか聞いていなかったので……彼の知らない情報は、私も知らないんです……」

なるほど。つまり、あそこで、俺が水の痕の事を仲西に話していれば、それは同時に彼女の耳にも入っていた、ということか。どうやら彼女は、仲西の声にだけ耳を傾けているらしい。

それにしても、何故、彼女は我々警察にそこまで協力的なのだろう? 

……その疑問は、今は置いておこう。

「まず、お礼をさせてください。ありがとうございます」

「えっ……」

いきなり頭を下げた俺を見て、彼女はまた驚いた。

「あなたのおかげで、解決した事件が何件もあるんです。だから、ありがとうございます」

「そ、そんな……私はただ、自分の意見を申し上げているだけで……」

俯いてしまった。まだ若干、警戒心があるようだ。まぁ無理もないが……それなら。

「もう、敬語は使わなくていいですよ」

「えっ?」

驚いて顔を上げた。

「もっと肩の力を抜いて話してください。俺はあなたには何の危害も加えませんから」

そう言うと、彼女は少し悩んだ後、俺に言った。

「じゃああなたも、私に対して敬語は使わないでください。敬語を使われるのは、ちょっと……」

「わかりました。いや……わかったよ」

そう答えると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。

さて……ひとまず、この女性をどうするか、決めなければいけない。見かけておいてこのままというわけにもいかない。

彼女の持っていた携帯を見て、俺は一つ決心をした。

「あの、君さえよければ……俺と一緒に付いて来てくれないか?」

「え?」

「だって、ほら」

携帯のボタンを押して待ち受け画面を彼女に見せた。

「充電が残りわずか……俺達は、また移動するから、これから更に情報を手に入れて電話を掛けても、通話中に切れてしまう可能性がある。なら俺と一緒についてきた方が、これから会う人たちの証言もよく聞けると思うんだが……どうだ?」

「で、でも、迷惑じゃない?」

「別に、迷惑ではないな」

「……」

彼女はしばらく悩んだ末、結果を出した。

「……行く」

小さく、そう言った。

「それじゃあ……どうやって付いて来る? 肩の上に乗るのは、さすがに危ないし……」

「ワイシャツの胸ポケット。そこなら安全だと思う」

「え、これか?」

左手で背広をめくった。確かに、普段あまり使わないワイシャツのポケットが付いているが……。

「ここでいいのか?」

「うん」

「……わかった」

まずは移動だ。

右手を彼女の前に差し出すと、恐る恐る指に足を乗せ、そのまま掌まで移動してきた。

身長は、大体五センチくらいだろうか。重さはわずかに感じる程度。息を吹き掛けると倒れてしまうのではないかと思ってしまうほど、軽かった。

「行くぞ」

右手に全神経を集中させ、ゆっくりと持ち上げる。

左手で背広をめくってポケットを広げ、そこに右手をくっつけた。

彼女は早歩きで掌を移動し、ポケットに飛び込んだ。

左手を離すと、背広で彼女の姿が見えなくなってしまった。

「苦しくないか?」

「平気」

少し籠った声が聞こえた。

よし、じゃあ行くか。と、立ち上がろうとした時、ある事に気付いた。

「そうだ……動作で何か気をつけなきゃいけない事ってあるのか? ゆっくり歩いてほしいとか……」

「別に、普段通りでいいよ。私、歩いてる人に飛びついて移動とかよくしてたから、慣れてるし」

結構、アクティブなんだな……。

「あ、でも、仲西刑事にはバレないようにしてほしいな」

「仲西に? ……わかった」

捜査中に騒がれたら、厄介なのだろう。

一応「じゃあ行くぞ」と声を掛け、立ち上がった。

普段通りと言われはしたが、無意識のうちに気にしてしまう。

いつも何も入れないポケットに彼女が入っている所為か、何だか妙な感じだ。

路地から出ると、仲西が駆け寄ってきた。

「赤石先輩! どこ行ってたんですか、捜しましたよ!」

「あ、ああ……すまない。電話に出ていた」

仲西に携帯を返した。

「えっ、僕の携帯……じゃあ電話って、もしかして、例の非通知の?」

「いや……まぁそうなんだが、聞いている最中に電話が切れてしまった」

何とかはぐらかしておいた。

……あ、そうだ。

「これ、さっき言った水の痕」

周りにわからないように、小声で、さりげなく背広を広げると、胸ポケットから顔を覗かせた。

「これは……」

何か呟き、ポケットに戻っていった。

基本、移動は俺の車のなのだが、いつも仲西が先に運転席に乗ってしまうので、俺は仕方なく助手席に乗っている。

「これじゃペーパードライバーだ……」

「通勤で運転してるから良いじゃないですか」

小声で言ったのだが聞き取られてしまった。俺は聴力には自信がある方だが、やっぱり若い分、仲西も耳が良いらしい。だから今まで、彼女の電話を聞き取ることが出来たのか。

胸ポケットに被らないようにシートベルトを締めると、そのまま発車した。

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