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刑事の俺と小人の君  作者: 颪金
小人編
29/43

解決

小人編になりましたが、事件解決のため、りまは出てきません

りまとした通話の内容を聞かされ、彼女との繋がりを詰められた。

「……まあ、そうだな」

電話で、彼女は俺との繋がりを話してしまっている。それなら、俺も話してしまおう。

「君に隠していたことは、すまないと思っている。ちなみに、いつから気付いていた?」

「怪しいなと思ったのは、この前の、森林公園の事件です。先輩、コンビニの防犯カメラを確認したじゃないですか、あの後、コンビニの裏で、一人で誰かと話しているのを見たんです」

「あの時か」

待っているように伝えたのだが、仲西は結局それを守れなかったということだ。いや、そこを責めるつもりはない。

「電話でも言われました、先輩のこと、責めないでくれって。だから何も言いません。ただ……さっき伝えそびれたんですけど、今後とも宜しくお願いします、と伝えていただけますか?」

「ああ、わかったよ」

「それと……その気があれば、僕も仲間に入れてほしいです」

「……伝えてみる」

全てはりま次第、だな。


数時間後、羽石さんと、猿渡さんに、りまの推理の内容が伝えられた。近くで待機していた客や店員達も、不安そうにこちらを見ていた。

「まず、来田さんは、本当は、羽石さんを殺害する目的で、ここへ呼び出したんです」

「えっ……」

衝撃の事実を突きつけられ、羽石さんは顔を青くした。

「ど、どうして、真紀ちゃんが、そんなこと」

「……理由は恐らく、これです」

仲西が出したのは、来田さんのバッグから出てきた、あのノート。

「ここには、羽石さん、あなたへの恨みつらみが記されています」

「私への?」

何がなんだかわからない、といった顔で、ノートを見つめている。

「具体的に何があったかはわかりませんが、来田さんはあなたとトラブルがあったそうですね」

「トラブル……」

何かを考えるように、俯いている。

「随分、白々しいですね」

猿渡さんが無表情で、口を開いた。

「羽石さん、来田先輩のこと散々苦しめてたでしょ、奴隷みたいに扱って」

「そんな、私はそんなこと……真紀ちゃんとは、ただの友達で」

「じゃあそのノート、読んでみてくださいよ」

羽石さんは震える手でノートを受け取り、数ページ、目を通した。

「……」

無言で閉じ、テーブルに置いた。

「これは……ちょっとした解釈違いです。私は普通に遊んでるつもりで、こんな風に思われてるなんて、知らなかったんです」

言い訳がましい、と、俺でも感じた。

「と、とにかく、真紀ちゃん、私を殺そうとしていたんですよね? それじゃ、どうして真紀ちゃんが死んだんですか?」

「来田さんは、あなたを殺害するために、あなたの目を盗み、お冷に毒を仕込んだ。でも、それを来田さん自身が口にすることになったんです。来田さんも知らないうちに、あなたと来田さんのお冷は、入れ替えられたんですよ」

「入れ替えられてた……私、そんなこと」

「あなたがやったなんて言ってません。犯人は、猿渡さん、あなたですね」

「……」

名前を呼ばれたが、表情は変わらなかった。

「どうして僕が? お冷を入れ替えるなら、羽石さんにもできるでしょ」

「猿渡さん、来田さんと、色々繋がりがあるようですね」

「そりゃあ、学生時代からの、知り合いですから」

「いえ、そうではなく」

仲西があるものを取り出した。それは、来田さんのスマホだった。二人に話をする前、メッセージアプリの履歴を調べていたようだ。

「今回の、来田さんによる、羽石さん殺害の計画、知ってたんじゃないですか? 結構頻繁にあなたと連絡を取り合っていますし、この店の営業時間や間取り、商品とかも細かく訊いていたみたいですね。羽石さんとのやり取りには、そんなことは書いてなかったです」

「そりゃあ友達を呼んで、お祝いするみたいでしたし、店の詳しいことは訊くでしょ」

あくまで、自分はやっていない、という姿勢らしい。

「じゃあこれなら、どうですか? 猿渡さん、来田さんに告白したこと、ありますよね。メッセージの履歴に、惚れた相手の言うことは聞け、とあります」

「仲西」

思わず口を開いた。

「他人のメッセージのやり取りを、公衆の面前に晒すのは、いただけないな」

「あっ……すみません」

咄嗟に謝罪したが、もう遅い。また少し熱くなっているようだ。

「……まあ、いいですよ、事実なんで。でも、それも昔の話です。告白したのは学生時代ですよ」

のらりくらりと躱されている。

「ちょっといいか」

仲西の手からスマホを掠め取り、あることを調べた。

「ネットの検索履歴、羽石さんのスキャンダルを調べまくった痕跡がありますね」

羽石直美と調べ、その後に、やれ出身校だ、やれ学生時代の素行だ、やれSNSだ……まるでストーカーのようだ。

「そのことを、アプリで猿渡さんと共有しているみたいですね。やっぱり知っていたのでは?」

猿渡さんは、じっと俺を見つめていた。

「羽石さんには、ただの水を、友人のものと入れ替える、その理由がない。その点あなたは、毒殺計画を知っている可能性があり、水を入れ替えることができる立場でもある」

「その毒殺計画とやらを知っていたとして、僕が入れ替えたなんて証拠にはならないですよ。言ったでしょ、僕は店のことを教えて、お祝いする場所を提供しただけで、来田さんと羽石さんのことはただの友達だとしか聞いてないんです」

「いいや……あなたは、来田さんの持っていたノートの中身を知っていましたね。来田さんが羽石さんを恨んでいる件、知っていたはずです」

ノートを開く前から、猿渡さんはノートの中身を知っているような口振りだった。

「おかしいとは思わなかったんですか? あれほど恨んでいる相手を祝うなんて」

「……」

ふう、と小さくため息をついた。

「来田先輩……真紀さんと僕は幼馴染で、真紀さん、昔はもっといい人だったんですよ。優しくて、活発で、頼りになって、自分の父親の仕事を誇りに思っている人で。なのに、中学に入る時に別れて、高校で再会したら、まるで別人で……人を殺す計画まで立てるようになってしまった」

そして、素早くテーブルの上のノートを拾い上げると、椅子に腰を下ろして、開いた。

「これ、羽石に再会した後から、いつも持ち歩いているんですって、モチベーションだって言ってました。これを読むと、いつでも当時の怒りが蘇ってくるって」

ぱらぱらとページをめくっている。

「僕、真紀さんが好きでした。あの人が小学校を卒業する頃に告白したんです。でもだめでした、まだ子供だからって」

声が震えている。

「僕は、優しくて頼りになる、あの真紀さんしか知らない。僕の思い出の中で、彼女は今も優しいままです。クラスメイトに恨みつらみを吐いて、人の恋心まで利用する、あの真紀さんは、さっき死にました」

「……認めるんですね」

俺の言葉に、小さく頷いた。その拍子に、目から雫がこぼれた。

「計画を実行に移すために、僕の協力が不可欠だったみたいです。でも、羽石を殺したら、あの人はどうなるかわからない。もう、殺す以外、生きている理由がないみたいだったから……僕が終わらせました。コーヒーより水の方が毒が効きそうだって言ってたから、水を足した時に、コップの場所を逆に置いて」

「わかりました、続きは署で」

警官が立つように促す――その時だった。

「何よそれ、ただの人殺しじゃない! せっかく、真紀ちゃんが、私を祝おうとしてくれてたのに!」

羽石さんが猿渡さんを責めた。

「……なんだよ、それ」

猿渡さんが前に出ようとしたのを、咄嗟に警官が止めた。

「どの口が言ってんだ、お前は真紀さんに何をした!? 奴隷のように扱って、私物を壊しただけじゃない、おじさんの持ってたヴィンテージもののカメラまで、おもちゃにして壊して、真紀さんが命よりも大事にしていた猫のすずちゃんに、毒まで食わせただろ! あの後、すずちゃんは、苦しみ抜いて死んだんだぞ!? 真紀さんは死に目にも会えなかった、お前がいたから!! ……それを今更なんだ? 白々しく関わってきやがって、結局自分のことしか考えていない……お前が真紀さんの心を殺したんだ、この人殺しっ!!」

顔を真っ赤にして吠えた。警官が数人がかりで、パトカーまで引きずっていった。


店内が、しんと静かになった。店員達のいる方から、嘘だろ、信じられない、ひどい、といった声が聞こえてくる。

「ち、違う、私、そんなつもりじゃ、そんな……」

羽石さんは震えながら泣き崩れたが、その肩を擦ろうとする人は、誰もいなかった。

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