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刑事の俺と小人の君  作者: 颪金
小人編
28/43

独自の捜査方法

省吾と別れた後、私はすぐに行動を開始した。

まず、トイレを出て、近くを歩いていた警官の足に乗って店内を移動した。

簡単に言っているが、普通に危険な行動だ。

「先輩、あの小瓶の中身、毒物だったそうです」

仲西刑事の声が聞こえてきた。

小瓶って、来田さんのバッグから出てきた小瓶だよね?それに毒が入っていた……。

「どうしたんですか? 先輩」

「い、いや、何でもない」

省吾の声も聞こえた。見ると、足元を気にしている。……私を、探しているのかな。

「君はあのノートをどう考えている?」

「恐らく……羽石さんから、日常的に、嫌がらせを受けていたのかと」

仲西刑事の言葉には、妙に説得力があった。ノートを見つけた時の反応からして、何か、過去にあったのかもしれない……。

「お冷の入っていたコップから、羽石さんと来田さん、それと猿渡さんの指紋が出たそうです。それと、微量ですが、来田さん以外のDNAが検出されたと――」

仲西刑事から、どんどん新しい情報が出てくる。えっと、状況を整理すると……まず、来田さんは毒殺。そしてその毒は、コーヒーやケーキではなく、お冷から出てきた。ということは、誰かがお冷に毒を入れたか、自分で入れたということ……で、来田さんが飲んでいたお冷から、羽石さんと猿渡さんの指紋、誰のものかわからないDNAが出てきた。

コップから出るDNA……多分、唾液だよね。じゃあやっぱり、誰かが先に水を口にしていたってこと? お冷の回し飲み? まさかね……。

その時、仲西が、私がしがみついている警官に近付いてきた。……いや、その後ろにいる羽石さんの元へ行こうとしてるんだ。

「よいしょっと」

素早く足から足へ飛び移った。まるで忍者だな、と自分で思ってしまう。

「すみませんが、もう一度お話を伺ってもいいでしょうか?」

仲西刑事が羽石さんに聞いた。何かヒントが得られるかも。

「はい……」

羽石さんも時間が経って冷静になっているようだった。

「まず、来田さんとの関係を、教えてください」

「学生時代からの友人です。昔はよく一緒に遊んでたんです」

「具体的には、どんな遊びを?」

「カラオケに行ったり、家で遊んだり……真紀ちゃん、お父さんも写真家で、家にたくさん道具があって」

「そうですか」

来田さん、お父さんも写真家だったんだ……確かノートには、お父さんの仕事道具って……。

「あ、飼ってる猫ちゃん、すずちゃんだったかな、おやつをあげさせてもらったことが」

すず。ノートにその名前があった。飼い猫の名前だったんだ。それが出た時のページが、一番恨みがこもっていたような……。

「でも、一度しか会ったことなくて、その後入院したって、真紀ちゃんのお母さんが」

「……」

不思議そうに首を傾げた。……なんだか、仲西刑事から怒りのオーラのようなものを感じる。だめだよ、落ち着いて、冷静に……。

にしても、飼い猫が入院って、いったいどうしたんだろう。

「今日は、来田さんから誘われて、この店に来たそうですね」

「そうなんです。私、今度モデルデビューするんですよ。今日はそのお祝いだって、ここに連れてきてもらったんです。それが、こんなことになるなんて……」

「そうですか、ここに、猿渡さんがいることは知ってましたか?」

「いえ、さっき知りました。猿渡君、真紀ちゃんのこと、ただの先輩と後輩だって言ってましたけど、あの二人、付き合ってるって噂があったんですよ」

「付き合っていた……来田さんの学生時代について、他に知っていることはありませんか? 例えば――誰かとトラブルを起こしていた、とか」

思わず、えっ、と小さく声が出た。随分と思いきったことを訊いたな……。

「真紀ちゃんが誰かをトラブルを起こしていたとかは、訊いたことないですね……むしろ私達が、あまりやんちゃするなって怒られてたくらいで」

その言葉に、強い違和感があった。

「なるほど。お話、ありがとうございました――」

次に、猿渡さんに話を聞いた。

「猿渡さんも、お願いします」

「はい。……と言っても、僕はただの後輩ですよ。この前、ここでバイトをしていることを話したら、じゃあ友達を連れて行く、と」

「それ以外に、何か話したりはしませんでしたか? 羽石さんのこととか」

「いえ、何も話してないです」

「羽石さんと来田さん、この店に来てからどんな様子でしたか?」

「普通のお客さんと変わらなかったですよ。というか、忙しい時間帯だったので、そこまでちゃんと見ていなくて……来田先輩の席に水を持っていった時だって、友達との関係を少し訊いたくらいで」

「友達との関係、具体的にはなんて答えてました?」

「高校の時の同級生で、久々に会ったから連れてきた、と。その時の様子も変わりなかったです」

「そうでしたか……」

仲西刑事が話をある程度聞いたところで、その場から離れた。

再び別の警官に乗って移動し、店の裏口から外に出たタイミングで人目につかない路地へ移動し、スマホから仲西刑事に連絡した。ちゃんと、非通知設定にするのも忘れていない。


「もしもし」

数コール後、仲西刑事が出た。

「事件の真相について、お話します」

いつもなら戸惑うか、私の正体について聞こうとするところを、私がゴリ押して推理を話し始めるのだが……。

「いえ、今回は必要ありません」

まさかの返答だった。

「それは……どうしてですか?」

私もつい、訊いてしまった。

「ここ最近、僕の先輩が、いい推理をしてくれるんです。だから、もうあなたの助言は必要ありません。どうしても話したいんでしたら、正体を教えてください」

「……」

どうしよう。省吾なら一人でも大丈夫と言いはしたけど、あれは彼を安心させるために言ったのであって、正直まだ不安だし……。

そもそも、仲西刑事に正体を明かしたくないというのは、私のわがままだ。私が、なんとかしないといけないんだ。

「私の正体については、教えられません。私の身の安全にも関わってくることなんです」

「身の安全? 僕に知られることが、危険なんですか?」

「それは、その……私自身、特殊な体質をしてまして、それをあまり人には知られたくなくて」

もし、仲西刑事から、警察の上の立場の人に私のことを知られてしまったら、どうなるかわからない。小人なんて空想上の生き物だし、下手をすれば、研究機関に送られて、解剖とかされかねないし……今のこの生活はできなくなるかもしれない。ああ、考えただけでぞっとする……。

「知られるとまずいような、特殊な体質なんですか?」

「そうです」

「それ、赤石刑事は、知ってるんですか」

「……知っています」

もう言ってしまう。赤石省吾と私は、繋がっている。

「やっぱり、そうなんですね」

仲西刑事は、やっぱり気付いていた。

「赤石刑事には、私の件は誰にも言うなと伝えてあります。これは私のわがままです、だから、彼を責めないでください。……これで、推理を聞いてくれますか?」

「わかりましたよ、話を聞かせてください」

なんとか、納得してくれたようだ。

「ありがとうございます。まず、先に言ってしまいますが、来田さんは毒殺です、自殺じゃありません」

「それじゃ、あの小瓶は? 来田さんのバッグには毒物の入っていた小瓶が入っていましたよ」

「あれも来田さんのものです。まず……来田さんは、羽石さんを殺すつもりで、この店に羽石さんを呼び出しました」

「殺すつもりで……でも、亡くなったのは来田さんですよ」

「それは――」

その瞬間、裏口の扉が開き、店員が出てきた。ゴミを捨てに来たらしい。

私のすぐ横を通り過ぎていく……喋り声、聞こえてないよね?

「どうしました? もしもし?」

「あ、えっと……」

いけない、集中しないと。

「来田さんは、自身の写真集を見せるなどして羽石さんの気を逸らし、その間に……」

ごみ捨てを終えた店員が、また私の横を通り過ぎていく。

「……その間に、羽石さんのコップに毒を入れました。でも、それを来田さん自身が口にしてしまったんです。自分のお冷だと思いこんで」

「思い込んで? 間違えたってことですか?」

「いえ、あれは……お冷の置いてあった場所を、故意に入れ替えられたんです。羽石さんか、猿渡さんに」

「入れ替えたのは、どうして、その二人だと? どうして、羽石さんのお冷に毒を入れたとわかったんですか? そもそも、どうして入れ替えて、来田さんを殺害する必要が?」

仲西刑事から沢山質問が飛んできた。

「あのコップについた指紋、来田さんと羽石さん、それと猿渡さんだけなんですよね? それなら、入れ替えたのは、羽石さんか猿渡さんの可能性が高いです。コップについた来田さん以外のDNAは恐らく羽石さんの唾液によるもの……毒を入れた後に口をつけたなら、羽石さんが生きているのはおかしいので、羽石さんのコップに毒を入れ、羽石さんを殺害するつもりが、誰かによってコップを入れ替えられ、自分がその水を飲んでしまった、ということです。入れ替えた理由は……わからないです。来田さんとの間に、警察にはまだ話していない、何らかの繋がりがあるのかも。もう少し、スマホの連絡履歴などを調べれば、わかるかもしれません。以上が、私の推理です」

「……わかりました、ご協力、感謝します」

礼を言われ、通話を終えた。

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