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刑事の俺と小人の君  作者: 颪金
刑事編 第三「恨みつらみ」
26/43

日記

「猿渡君と真紀ちゃん、高校生の時によく一緒につるんでて、付き合ってるんじゃないか、なんて言われてたんです」

「別に……ただの先輩と後輩なだけです」

猿渡さんは気まずそうに答えた。

「来田さんとは、高校を卒業してからも交流があって、ここでバイトをしてると話したら、友達を連れてくるという話になったんです」

「来田さんと、何か話をされていたそうですが……」

「ただの世間話です。友達との関係とかを聞いてました」

「なるほど……」

その時、来田さんのバッグを確認していた警官が仲西を呼んだ。

「仲西刑事、これが……」

一冊のノートを差し出した。

「これは?」

それを開いた仲西の表情が凍りついた。

「仲西、どうした? ……仲西?」

目を見開いていて、手が震えている。明らかに普通じゃない。

「仲西!」

肩を掴むとハッと顔を上げた。

「す、すみません……」

「どうしたんだ?」

手からノートを取り上げ、中を読んだ。




「四月六日。最悪だ、また羽石と同じクラスだ。あの女の名前を見るだけで吐き気がする。」


「四月七日。早速羽石にパシリにされた。いい加減飽きてほしい。でも文句を言ったら、もっと酷い目にあってしまう」


「五月十五日。体育の時間にわざと顔にボールをぶつけられた。制服も隠された。先生に言っても面倒くさがって対処してくれない。お父さんやお母さんは、迷惑かけたくないから言えない」


「七月二十五日。教科書とノートをぼろぼろにされた。テスト前なのに……」


「八月二十日。夏休みなのに、羽石が私が家で一人なのを知ってて、取り巻きを連れて大勢で家に来た。止めたのに、お父さんの仕事道具や宝物にまで、手を出された。

許さない

  くそ女」


「あいつが すずを

死ね しね

  ころしてやる」



その後のページにも綴られていたが、徐々に殴り書きへと変わっていき、最後の方はペンでぐちゃぐちゃに塗り潰されていたり、ページが握りつぶされたようにしわくちゃになっていて、読めなくなっていた。

「これは……」

顔を上げ、まだ涙ぐんでいる羽石さんを見た。

「な、何ですか?」

ぽかんとした顔でこちらを見つめている。

「……羽石さん、あなた本当に、来田さんとは友達だったんですか?」

仲西が訊いた。明らかに羽石さんを睨んでいる。

「仲西」

声をかけたが、聞こえていないのか、前に踏み出した。

「と、友達、ですけど」

「本当ですか? あなた、本当は来田さんのこと――」

「仲西!」

咄嗟に間に入った。

「熱くなりすぎだ。落ち着きなさい」

「……すみません」

肩を押して近くの椅子に座らせると、がっくりと項垂れた。


「あの……赤石刑事」

ノートを見つけた警官が声をかけてきた。

「その、お休みとは思いますが、仲西刑事があの様子で……これも見つけました」

その警官の手には、空の小瓶が握られていた。

「これは……中にまだ痕跡が残っているかもしれない。調べてみてくれ」

「はい」

喫茶店を出ていく警官を見届けてから、仲西に声をかけた。

「仲西、大丈夫か?」

「はい……」

数回深呼吸をして立ち上がった。

仲西がここまで取り乱すことは、滅多にない。先輩として、しっかりしないといけない、が……胸ポケットから衝撃を感じた。りまが呼んでいる。

「すまない、トイレに行ってもいいか?」

「え? ……どうぞ」


仲西からの視線を感じながら、客用のトイレに入った。

鍵をかけたのを確認し、胸ポケットを覗いた。

「りま、どうし……」

た、と言い終える前に、りまが口に指を当てて、静かに、のジェスチャーをした。

そのまま、自分の耳を指差した。……耳を近付けろ、ということか。

ペーパーホルダーの棚にりまを下ろし、屈んで左耳を近付ける。

「仲西刑事に相当怪しまれてるよ。声を出したら、外にも聞こえるから、今は私の話を聞いて」

小さく頷いた。

「ありがとう。それで……仲西刑事の目を欺くために、ここからは別行動を取りたいの」

え、と思わず声に出しかけた。身体を起こして彼女を見る。自信満々の顔をしている。

別行動はさすがに不安だ。悩んだ末、俺は首を横に振った。

それをりまは、別の不安だと思ったらしい。

「大丈夫だよ、省吾なら一人でも捜査できるよ。一人立ちすると思って、ね?」

そうじゃない、俺の不安はそこじゃない……だいたい、君はそう思ってないだろう。前回の事件の捜査でも、俺は不甲斐ないところを見せまくっていた。

声を出すと外に漏れる。スマホを取り出してメモアプリを開いた。

『君に危険が及ばないかが心配だ』

それを見て、小さくため息をついた。

「私なら、大丈夫だよ。仲西刑事が怪しんでるのに、私から情報を聞くためにいちいち避けてたら、いつか本当に見つかっちゃう……そもそも、仲西刑事に私のことを話せばいいのに、それを嫌がったのは私なんだから……今回は、ね?」

『責任を取って、ということか?』

しっかりと頷いた。

言いたいことは、わからないでもない。りまは、俺に会うよりも前から、一人で捜査していて、修羅場はいくつも潜り抜けている。俺に出会う前の状態に戻るだけだ……だが、おこがましいとわかってはいるが、とてつもなく不安だ。

「お願い、省吾……」

懇願してくる。俺はもう一度スマホに視線を落とした。

『わかった。だが、危ない目に遭いそうになったら、すぐに逃げてくれ』

「ありがとう、省吾。じゃあ、スマホをそのまま置いていって、何かあったらそれで仲西刑事に連絡するから」

指示に従い、ホルダーにスマホを残して、トイレを後にした。

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