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刑事の俺と小人の君  作者: 颪金
小人編
21/43

酒盛り

その日の仕事を終え、俺は真っ直ぐ家には帰らず、近くのショッピングモールへ向かった。

三階にある大型の玩具販売店で、入店するなり、ドールコーナーへ向かった。

「何かお探しですか?」

物色していると、笑顔の店員に話しかけられた。

「親戚に子供が生まれまして、人形の服を買いたいのですが、四センチの人形に合う服はありますか?」

「四センチ、ですか……少々お待ちください」

インカムで話す店員の後ろ姿を見て、俺は、目的の物はここには無いと察した。

その後、やはり無かったので、別の物を買い、店を出て、手芸店に寄り、生地を何種類か購入し、地下の食料品売り場で酒類とつまみを購入し、駐車場へ戻った。

「りま、戻ったぞ」

声をかけると、助手席に待たせていた小さな影と目があった。

「随分、時間がかかってたみたいだけど……何を買ったの?」

「酒と、つまみだ。君は、酒を飲むのが今回が初めてだと言っていたから、色々選んでいたんだ」

「……ふうん」

じっと、こちらを見ている。生地を買ったこと、バレているだろうか。

「早く帰ろうか、今夜は飲むからな」

買い物袋を後部座席に置き、りまを胸ポケットに入れ、エンジンをかけた――。


りまが「酒が飲みたい」と言った時、俺はかなり面喰らった。

「それで、良いのか?」

「うん。私、十八で家を出たから……ちゃんと、お酒を飲んだことが無くて。機会が無かった訳じゃないんだけど、ほら、お酒って、飲むと眠たくなったり、注意力が散漫になったりするって聞くじゃない? だから、もし、私がお酒を飲んで、そうなったら、危険かな、と思って。だから、省吾に、何かあった時に介抱してほしいなーって……」

「なるほど……わかった」


――そんなこんなで、今に至る。がさがさと買い物袋を揺らしながら鍵を取りだし、部屋に入った。

「先に、風呂に入ってしまおう」

酒を冷蔵庫に入れ、てきぱきと風呂の準備を進め、りまに先に入ってもらい、俺自身も風呂場へ向かった。

「ここにするか……」

取りに行けないとはいえ、部屋の隅に置いたままにしてしまうと、頭のいい彼女なら、気付いてしまうかもしれない。そう考え、脱衣所の棚に玩具店で買った物と手芸店で買った物をしまった。


入浴後、夕飯と酒を用意し、席に着いたところで、りまが風呂場から出てきた。

「もう準備できたの? ……やけに張り切ってない?」

「そうか? これくらいはすると思うぞ。でもな……」

ビールの缶を開けて、自分のグラスに注いだ。

「君のグラスにどう注いだらいいか、考えていたんだが、浮かばなかった」

差し出したのは、ドール用の小さなグラス。玩具販売店で買ったものだ。

「あ、じゃあ……ペットボトルの蓋ってある?」

「確か、キッチンにあったな。ちょっと待っててくれ」

飲み終えたペットボトルの蓋を、丁寧に洗って持っていった。

「これに注いで。これから汲むから」

「わかった」

ビールは泡とのバランスがいいんだがな……まあいいか。

「それじゃあ、今日はお疲れ様」

「お疲れ」

グラスを軽く掲げて、口にした。

「……うん、美味しい」

にっこりと笑った。

「そうか。飲みすぎには注意してくれ」

「わかってるよ」

酒を飲みつつ夕飯を済ませ、次の酒を用意していると、りまが言った。

「ねえ、省吾。……手に乗せてくれる?」

「手に? どうしたんだ?」

「ちょっと、お尻が痛くて……」

もじもじしている。テーブルは硬いから、何かクッションが欲しいのだろう。

「手でいいのか? ベッドもあるんだが」

「ううん、手がいいの。何かしたかったら動くから」

「わかった」

テーブルに力を抜いて左手を置くと、グラスを持ったまま、掌に座り、指に背をもたれた。

「省吾、そういえばだけど……お姉さん、いるんだね」

「ああ、言っていたな」

清水さんとの会話を思い出した。

「歳は? いくつぐらい離れてるの?」

「五つ離れていて、今四十だ」

「四十歳かあ……えっ!?」

目を見開いた。

「どうした?」

「いやっ、その……お姉さん四十歳で、五つ離れてるってことは、省吾、三十五歳なの!?」

「そうだが……そんなに驚くことか?」

「だ、だって、二十代かと思ったから」

「君と同じくらいだと思ったということか? それは嬉しいな」

「え、いや、二十九くらいかなあって」

「……そうか」

少し調子に乗りすぎたようだ。

一時間くらいたった頃、りまに変化が現れた。

「……」

口数が減り、目がうつろになってきた。

「りま?」

「あっ……」

声をかけると顔を上げる。

「ちょっと、休憩……」

僅かに残っていたグラスの中身を飲み干し、テーブルに置いた――その時。

「うーん」

掌に倒れこんでしまった。

「大丈夫か? ……りま?」

声をかけるが、返事が無い。よく見ると、寝息を立てている。

「りま、起きてくれ、そこで寝ると風邪を引いてしまう」

指先で軽く突いてみたが、起きない。

友人や部下と飲みに行った時も、必ず、みんな寝てしまうから、こういうのには慣れているが、今回ばかりは状況が違う。

「仕方ないな……」

頭を掻いて立ち上がり、脱衣所へ向かった。

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