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刑事の俺と小人の君  作者: 颪金
刑事編 第二「四つの時計」
20/43

潜入と真相

思えば、俺はかなりわがままを言っていた。

一度目の潜入捜査の時に危険を感じたから、二度目の潜入捜査は止めたのに、今、その潜入捜査を再びやってもらおうとしている。

清水さんは家を出た後、真っ直ぐゴミステーションへ向かい、緑のネットを捲り、その袋を置くと、上に他のゴミを積み、丁寧にネットを被せ、しっかりと石を乗せて立ち去った。

「りま……このゴミ袋の中、調べてくれないか?」

俺が頼むと、りまは少し考えた。考えて、俺の意図を汲み取ってくれた。

「私は、一般市民だもんね?」

「ああ。勿論、危険なことがあったら、すぐに戻ってきてくれ」

「うん」

幸い、袋の口は、縛られてはいるが、隙間が空いていた。近くにりまを下ろすと、するすると中へ入っていった。

十分くらい、だろうか。りまが出てきた。

「あ、赤石刑事! 袋を覗いたら、血まみれの赤と青の、リバーシブルのジャケットと、血まみれの包丁を見つけたんですけど! 何か事件かも!」

わざとらしく、手を振って叫んだ。両手にはその血がベッタリとついている。

「そうですか。情報提供、ありがとうございます」

俺もわざとらしく、敬礼して答えた。

車に乗り込み、再び用事を済ませた俺は、清水さん宅のチャイムを鳴らした。

「何なんすか? 今度は家にまで……」

出てきた清水さんは、怪訝そうに言った。よく見ると、脂汗をかいている。

「実は、先程、あなたが棄てたゴミ袋から、不穏な物が出てきました」

キッと、清水さんは俺を睨んだ。

「調べたんすか? プライバシーの侵害ですよ」

「民間人からの通報です。事件性が高いと判断しましたので。それに、俺は袋には指一本触れていません」

俺は、な……。

「そんなわけねえだろ!」

 家を飛び出し、すぐ目の前のゴミステーションを見て、呆然としていた。当然だ、袋の位置は一切変えず、中を確認したのだから。

懐から一枚の紙を取りだし、見せつけた。

「鑑定した結果、あなたの棄てたゴミについていた大量の血液が、篠田さんの血液と一致しました」

あの後、袋から出たりまの手を、手持ちのウエットティッシュで拭い、それをそのまま本部へ持ち帰り、鑑定してもらっていた。

「……」

清水さんはその場に膝をついた。

「ゆかりのやつ、裏切りやがって――!」


やはりというか、清水さんの犯行の動機は、お姉さんの件だった。

酷いセクハラをし、会社を辞めさせた篠田さんを、清水さんは、殺したい程憎んでいた。

そして、同じく被害者を憎んでいたのが、篠田さんと交際していた元彼女の大宅さんだった。

二人が別れた原因は、清水さんのお姉さんへのセクハラだった。

別れる原因になった篠田さんの所業も、その後に会社を辞めさせたことも、大宅さんは、女性として、元恋人として、許せなかった。

清水さんは大宅さんへ協力を仰ぎ、二人で、犯行に及んだ――。

「刑事さん、あんた、兄弟いるの?」

手錠をかけ、パトカーを待ってる間、家の前で座り込み、項垂れている清水さんが、俺に訊いた。

「……姉がいます」

正直に答えると、顔を上げて、俺を見た。

「ですが、俺の姉は、多分、あなたのお姉さんと同じ立場になっても、こうなることは望まなかったと思います」

いや、と、首を降った。

「きっと姉貴なら、自分で解決しました。……俺の姉、なんで」

根拠の無いことを言っていると、パトカーのサイレンが聞こえてきた。

「俺と刑事さんの決定的な違いって、そこなんだろうな……」

立ち上がった。

「俺、篠田を殺した後、その事を姉ちゃんに言ったんだ。殺したとは言ってねえよ? 死んだって伝えた。そしたら、何て言ったと思う?」

「何て、言ったんですか?」

俺を見て、ふっと笑った。

「そっか、私があいつを殺したかったなって……マジ怖えよな」

でも、と続けた。

「そこまで強い姉ちゃんなら、こんなことする必要なかったな……姉不孝なことしちまった……」

その後、詳しい捜査で、事務所の時計から微量だが、マタタビが検出された。管理人も逮捕され、事件は終息した。

清水さんを乗せたパトカーを見送った後、本部に戻ろうと、車に乗った。

「はあ……」

「どうしたの、省吾。ため息なんてついて」

胸ポケットから声がした。

「いや……らしくないことをした、と思って」

「どういうこと?」

「普段は、部下や民間人を危険な目にあわせるような真似はしないんだが……」

少し考えて、続けた。

「りま、昨日といい今日といい、俺は君の力を借りてばかりだ。いや、昨日今日の話じゃない。ずっと、そうだった」

「そんな……私は、当然のことをしただけだよ?」

謙遜するが、続けた。

「俺は少し、君のわがままを聞きたいと思った」

「わ、わがまま?」

ポケットを覗いた。

「何か、したいことはあるか? 捜査以外で、俺にできることなら、何でもする」

上から目線な言い方になるが、俺は所謂ご褒美を、りまにあげたかった。

「……」

りまは少し考えて、答えた。

「お酒が、飲みたい」

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