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刑事の俺と小人の君  作者: 颪金
刑事編 第二「四つの時計」
19/43

考え

「いや、刑事さん、俺は、関係ないっす」

この期に及んで、清水さんはしらを切った。

「だいたい、決定的な証拠、無いっすよね? 仮に、俺が時計をいじったとして、それと殺人とは、無関係ですよね?」

確かに、清水さんが時計に細工をして、猫がその時計の針をいじって時間をずらしたことが事実だとしても、それが、篠田さんを殺したことには繋がらない。

そもそも、清水さんはどうして、時間をずらしたのか……答えは、犯行発生の時間を三時だと思わせ、自身のアリバイを作るためだ。

手がかりとなるのは、あの写真と、二つの防犯カメラの映像。あの中で、清水さんが犯行を行ったことを、証明しなくてはいけない。

りまの推理では、清水さんは出掛けた当初、青いジャケットを着ていた。赤いジャケットに変え、犯行後、再び青いジャケットで家へ戻った……と考えられている。

「……答えられないんなら、俺がやったとは、証明できないっすね。そういうことなら、俺は帰りますよ」

勝ち誇ったように言った。


「先輩、どうするんですか? 大宅さんの証言だけでは、現段階での逮捕は難しいかと……」

清水さんは帰ってしまった。仲西は大宅さんをパトカーに載せ、俺に訊いた。

「大宅さんからの証言で、証拠が出れば、いずれは逮捕できるとは思うが……もう少しここで考えてみる。先に本部に戻ってくれ」

「はい」

大宅さんの隣に座り、俺を残して公園を出た。

……さて。

「りま、これでよかったのか?」

胸ポケットを覗くと、笑顔で頷いた。

「今回の事件、あまりにも証拠が少ないからね……これで、相手は動くはずだよ」

「わかった。次は……清水さんの家、だな」

自分の車に乗り込み、エンジンをかけてふと、訊いてみた。

「もしかして、とは思うが……君はまた、潜入捜査をしようとしているのか?」

「うん、そうだけど?」

それが何か? とでも言いたそうに訊いてきた。

ついさっきのこと、公園に行く前、りまは俺に、清水さんを揺さぶるように言った。彼に、犯行の決定的な証拠を出させるために。

徹底的に揺さぶったから、後は証拠が出るのを待つだけ……なのだが、りまはそれが待てないようだ。

「省吾は十分やったよ。後は私に任せて」

胸ポケットから聞こえる声は、自信に満ちていた。

その後、移動し、清水さん宅の近くの駐車場に車を止めた。

「省吾、家の前まで行って。適当な入り口を見つけるから」

「いや……ちょっと待ってくれ」

ポケットから出ようとしたので、入り口を右手で塞いだ。

「えっ、どうして?」

「どうしてって、よく考えてみてくれ、君が出なくても、相手は証拠を棄てたりするために外へ出るはず……それを待てばいいだろう? そもそも、君はどうして、潜入しようと思ったんだ? 証拠を出してもらうために清水さんを揺さぶったのなら、もう潜入の必要はないはず――」

その時、胸に衝撃を感じた。多分、殴ったのかもしれない。

「言葉を返すようだけど、相手はかなり用意周到に犯行を行ったんだよ? 棄てるんならもう少し後か、もっとわかりにくい方法を取るはずだよ。それを調べる。ね、私なら、大丈夫だから」

「……」

なんだ、この感じは。全身の毛が逆立つような……頭が熱い。

「省吾、何考えてるの? 落ち着いて」

諭すような声が聞こえた。

右手を見ると、震えていた。ふう、と息を吐いた。

「……君もそうだが、俺も、焦りすぎだ。互いに考えていることが異なっている。ここからは清水さんの家が見えるから、何かあればわかる。少し考えを擦り合わせよう」

ポケットから出し、掌に乗せた。

「りま、君は、清水さんが持っている犯行の証拠は、何だと考えている?」

「犯行に使われていた凶器と、衣服だよ。刺殺って、かなり返り血を浴びるって聞いたことあるから、それが証拠になるかもって思ったんだ。公園の敷地内からは、凶器も衣服も見つからなかったんでしょ? 棄てる間も無かったと思うから、まだ家にあるかも」

「揺さぶった理由と、潜入する理由は?」

「私が犯人なら、の話だけど……自分が疑われたら、証拠になる凶器や衣服は、持ってるとまずいから、血を消したり、ゴミ袋に入れたりすると思う。家に証拠品がある間に、その瞬間を見たかったの」

「なるほどな……だが、その目撃だけを証拠にするのは、難しい」

「やっぱり、そうかな……私も、厳しいかなとは思ったけど、他に思い付かないし……」

彼女も自信がなかったようだ。簡単な事件とはいえ、証明自体は難しいらしい。

「省吾は、どうして私を止めようとしたの?」

「俺は……」

ちらりと、清水さんの家を見た。

「清水さんを揺さぶったのなら、彼が証拠品を棄てるために外に出るまで待てばいいと思ったのと、あと……純粋に、君が心配だった」

「えっ?」

目を見開いた。

「……りま、君は、何度も家に侵入しているから、単純に家に入ること自体は、造作もないのかもしれない。だが、君は不法侵入に罪悪感を抱いている。捜査のためとはいえ、それは心の傷を抉ることになるかもしれないし、何より、危険極まりない行動だ。だから、そんなことはさせられない……と、思ったんだ」

言っていいのか迷ったが、全部言ってしまった。

「省吾……でも、それだと証拠が――」

その時だった。清水さんが、家から出てきた。白いゴミ袋を抱えている。

「……りま、俺の頼みを、聞いてくれるか?」

不適に笑いながら言ってしまった。

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