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刑事の俺と小人の君  作者: 颪金
刑事編 第二「四つの時計」
17/43

潜入捜査

しばらくして、寝息が聞こえてきた。

ポケットの中は、当然だが、人が入るようには作られていない。元々不安定だが、胸が、リクライニングして斜めになっている上、呼吸で上下しているから、立ったり座ったりしていると、バランスが安定しない。

「よいしょ、っと……」

とりあえず私も、横になって、省吾に全体重を預けることにした。重さはあまり感じないはずだから、大丈夫……だと思う。

それにしても、あの守内刑事、何者なんだろう。

名前自体は聞いたことあるけど、顔を見たのは初めてだ。

あの人の顔を見た時の省吾の目は……嫌悪そのものだった。

私は省吾に見つかる前から、省吾のことは、仲西刑事を通して見てきた。どんなに凶悪な犯人に対しても向けない目を、守内刑事にだけは、向けていた……。

「どうして? 省吾……」

訊いたが、答えてくれない。眠っているから、当然だ。

……いや、今は事件のことを考えよう。

犯人は十中八九、清水さんで間違いない。

先程出てきた、四つの時計のうち、犯行時に確実にずれていたのは事務所の時計。

わからないのは、ずれた理由と、撮影された時間。

それを知るためには、最低でも、事務所の中に入る必要がある……。

要するに私は、潜入捜査をしようと考えている。

管理人が、警察に協力したくないくらい、何かを隠しているのは明白……入れてもらえないなら、入ってしまえばいい。私の身体なら、余裕だ。でも、省吾が何て言うかな……。

推理より、説得方法を考えていると、省吾が目を覚ました。

「ふぁあ……」

大きな欠伸をしている。言うなら今かもしれない。

「省吾、ちょっといい?」

「ん、どうした?」

リクライニングを戻し、アイマスクを外した。眩しそうに目を細めている。

「夜になったら、もう一度現場に行くでしょ? その時に――」

潜入捜査をしたい旨を伝えると、うーん、と考えていた。

「……わかった、やってみよう」

約束は取り付けた。絶対、成功させよう。


夜になるのを待ち、他の刑事が次々と帰る中、省吾は車を走らせ、現場へ戻った。

午前二時。被害者の死亡推定時刻の辺り。

「管理人は……まだいるな。事務所の灯りもついている」

管理人に気付かれないように、周囲を散策していると、ドア枠の下に隙間を見つけた。

私を胸ポケットから出し、そっと地面に降ろした。

「できるだけ、無茶はしないで、なるべく早く戻ってきてくれ」

「うん、わかった」

笑顔で答え、隙間から事務所に潜入した。

中に入って見えたのは、例の時計と、ソファ、壁に打ち付けるタイプの棚と、テーブル。管理人はそこで、夜食だろうか……カップ麺を啜っている。

テーブルの下にあったあるもの。それを見た時、店主が何を隠しているのかわかった。

大きな平たい鉢植えに、植えられた沢山の植物……。

以前、忍び込んだ家で、家主が、警察に密着する番組を観ていた。その映像に、それも一緒に映っていた。

「……大麻だ」

思わず口にした。なるほど、これは確かに、警察を中には入れられないわけだ。

これはこれで省吾に知らせないと……と思った、その時。

「にゃあお」

その声が聞こえた時、総毛立った。

遥か上空、壁に打ち付けられた棚の上に、明らかにこちらを見ている、巨大な白い猫。瞳孔は開いていて、お尻を振っている。

私を、狙ってる――。

「おい、じっとしてろよ、あげないからな」

管理人が言った。きっと、カップ麺を狙っていると思い込んだのかもしれない。それを聞いたのか、猫は私から目を離した。

た、助かった……?

一旦、ここから出ようと踵を返した、その時。

「にゃあ」

また聞こえた鳴き声に、振り返った。が、今度は私を見ていない。

棚の端から、目一杯前足を伸ばして、あるものを必死に叩いている。

「あっ、おい、また……仕方ないな、後で直しておくか……」

管理人の呟きを聞いてから、私は急いで、ドア枠の隙間から外に出た。

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